「都教委が情報を隠し過ぎている」
また、本試験は前半組と後半組に分かれて行われたが、その平均点は前半・後半ともに60・77と小数点第2位まで一致した。それぞれ約3万5千人いた受験者の平均点が、これだけピタリと一致する確率はどれくらいあるのだろうか。
その後、都教委は、「採点ミス」の生徒の点数の上昇を受けて、前半組の平均点を60・78に修正。しかし今度は、「たった8人の点数アップで0・01も変わるのか」という声が上がった。
「選抜の公平性の問題」に詳しい東京大学大学院教育学研究科教授の中村高康氏は言う。
「次々と疑念が生まれるのは、都教委が情報を隠しすぎているからです。テストの統計処理に関しては、専門家から『等化しているように見えない』と言われているのだから、公の場で説明すべき。採点に関してもそう。採点者の人数や保持資格といった集合的な情報は、ちゃんと運営しているのであれば出せるはずです」
面接や小論文など、公平性を保つのが難しい試験はある。しかし、できる限り公平性を壊さないよう努力を重ねてきたのが、入試の歴史だ。
「『少々ずれてもいいじゃないか』という都教委側のノリを感じます。これまで非常に慎重に積み上げてきたものを、ずいぶん簡単に壊すな、と。その意識が他の道府県に広まっていくことを懸念しています」(中村氏)
反対運動は合格発表目前の今も続く
不安はそれだけではない。教育現場における都教委への不信感だ。受験生、保護者、専門家だけでなく、中学校や高校からも不満の声が漏れている。
「都教委に対しての信頼性は下がり続けています。オオカミ少年ではありませんが、いつか信用してもらえなくなる。このようなことを、教育を率いている人たちに向かって言わなければならない状況自体が、社会の在り方として恥ずべきことだと思います」(同)
反対運動は合格発表を目前にした今も続いている。
「採点ミスは氷山の一角。不受験者に架空の点を与え、合否が変わる心配はこれから。問題はさらに大きくなるはずです」(同)
(ライター・黒坂真由子)
※AERA 2023年3月6日号 2023年3月6日号