今春、19年ぶりに新たな高等専門学校(高専)が徳島県神山町に開校する。もともと高専は高度経済成長期に産業界の要望に応えるかたちで創設され、実践的技術者を養成してきた高等教育機関である。全国57校の高専生への評価は高く、求人倍率約10~20倍、就職希望者の就職率はほぼ100%。しかし今、社会が必要とする技術者の姿は変わりつつある。徳島県に新設される「神山まるごと高専」は“テクノロジー×デザイン×起業家精神”を軸にした教育を目指している。それは文部科学省が求める“これからの高専の姿”とも合致する。
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「神山まるごと高専は、われわれが考えている方針にまさにドンピシャで、しかも、かなり先を行っています」
文科省高等教育局専門教育課の奥井雅博課長補佐は率直に期待を込めて、そう語る。
ここで述べられた高専に対する文科省の方針とは、「ものづくり×AI×課題解決」によるチャレンジを後押しする教育環境を整備してスタートアップ人材の育成を加速する、というものだ。
「高専は、中堅技術者を育てる、という目的で60年ほど前につくられましたが、求められる役割は少しずつ変わってきました。高専で培った技術や思考をもとに新しい価値を見いだすチャレンジをする。そういったところをもっと強めていく必要があると考えています」
背景にあるのは、バブル経済崩壊後の、日本企業の競争力の著しい低下だ。今、世界経済をリードするのはアップル、マイクロソフト、アルファベットなど、米国で起業し、国際的に展開する巨大IT企業である。電気自動車のテスラの存在も大きい。
最低レベルの起業家精神
日本経済を立て直すには何が必要か?
岸田文雄首相を議長とする「新しい資本主義実現会議」の「スタートアップ育成分科会」が指摘した課題の一つは、日本人の起業家精神の低さだ。
日本の特許出願件数(2021年)は首位の中国約159万件、米国約59万件に次ぐ約29万件。中国との差は開いているものの、世界トップレベルであるのは間違いない。
ところが、分科会の資料によると、「起業」を望ましい職業選択と考える人の割合は、中国79%、米国68%なのに対して、日本は25%にすぎない。これは先進国・主要国のなかで最も低い水準である。
つまり、日本には優れた技術やアイデアがありながら、事業化や商業化につなげられていない現実がある。