まだそういうことがあるのか……と、ネオン街に吸い込まれていくように歌舞伎町に向かう人々の層を見ながら不思議な気持ちになる。警察が注意喚起している事件の「ターゲット」になりそうなスーツ姿のサラリーマンは少数派に感じるほど、通りには、若い女性たちで溢れている。その女性たちを鋭い目で見つめ、つきまとうような男性たちが無数に溢れている。多くはホストクラブの客引きだったり、AVを含む性産業への勧誘をするスカウトだったり。女性を見定めるように街に立つ男性たちの振る舞いを遠目に見ていると、この歌舞伎町で何が起きているのか、じわじわと輪郭がクッキリしてくる。

 驚いたのは男性たちの多くが、よく知られた、高級ヨーロッパブランドの黒光りするダウンジャケット(20万円以上しますね)を着こんでいることだった。狭い道路いっぱいにホストクラブの広告車が1時間に何台も通り過ぎることにも衝撃を受けた。ネオン街の広告は、十数年前はキャバクラの広告で溢れていたのに、今は高い広告スペースにあるのはホストクラブのものだけなことも、私にとっては「新しい歌舞伎町の景色」だった。ヨーロッパの冬のアルプスを堪える分厚い黒ダウンの男性たちを大量に目の当たりにし、ここは男性が稼ぎ20万円のダウンジャケットを着て仕事をし、壊れそうな高いヒールをカタカタさせながら歩くペラペラの薄着の女の子たちが食われる街になっていることを実感する。「いつから」「なぜ」という疑問は尽きないが、「世界一の歓楽街」「欲望の街」と呼ばれる歌舞伎町のギラギラは、若い女性たちにはどのように見えるのだろう。

 友人たちと歌舞伎町を歩いていると、若い女性2人がホストクラブの客引きの男性に捕まっていた。遠巻きに見ていたが、聞こえてくる会話が不穏だった。「マイナンバーカード見せて」「保険証でもいいよ」「初回は1000円だけだから」。そんな交渉を若い男性が、10代らしき女性2人組にしている。女性たちは迷っているのか、10分以上ずっと「どうする」という感じでもじもじしているのが背中から伝わる。

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勇敢な女友だちが動いた