「一般論ですが、もし親が息子の暴力を避けるために別居していたとすれば、息子が食事をとるために親元(実家)に通うという生活スタイルは成り立たない。家庭内暴力の可能性は低いと思います。息子に(別宅で)単身生活をさせれば、早く自立してくれるかもしれないという親の期待があり、あえて実家から離れた場所で生活させていた可能性があります」

 ではなぜ、普段は無口でもの静かな41歳の男が刃物で宮台氏を襲撃するような凶行に至ったのだろうか。「動機はわからない」と前置きしたうえで、斎藤氏はこう話す。

「世間では誤解されているが、ひきこもっている人が犯罪や通り魔など、犯罪に走ることはきわめてまれです。そういう攻撃的な思いを抱いても、普通は家族との関係が歯止めになります。家族への気持ちがあるから思い留まる。ただし、家族との絆が希薄な場合は、歯止めも弱い。容疑者の場合、家族とのつながりが希薄だったのかもしれません」

 前述のように、母親は「エホバの証人」の信者だった。もし息子にも信仰を強いていたとすれば、親子関係がゆがんだ形になりやすいことは、最近報じられる「宗教2世」のケースを見ても明らかだ。斎藤氏はどう見るのか。

「宗教が無関係だったとは思えません。『エホバの証人』は、信者の親が小さい子どもを連れ、布教活動に付き添わせたり、学校で剣道や柔道の授業を受けるのを禁止させたり、日常生活でも非常に制約事項が多いことで知られています。そのため、容疑者は子ども時代に孤立したり、仲間外れにされたりする環境だった可能性もあります。そう考えると、本人がひきこもり状態になった遠因には、宗教が影響していた可能性は否定できません。宗教2世問題とは断定できないにしても、全く無関係だったとは考えにくいですね」

 これまで、斎藤氏は宮台氏と対談やトークイベントなどで何度か共演してきた。最近の宮台氏の様子についてこう話す。

「先月も、宮台さんがレギュラーを務めるニコ生の『深掘TV ver.2』に出演しました。以前と変わらずお元気そうで、とても安心しました」

警視庁は家宅捜索などで遺留品などを分析し、容疑者死亡で男を書類送検する方針だ。事件の背景や動機が少しでも明らかになることを期待したい。

(AERA dot.編集部・上田耕司)

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上田耕司

上田耕司

福井県出身。大学を卒業後、ファッション業界で記者デビュー。20代後半から大手出版社の雑誌に転身。学年誌から週刊誌、飲食・旅行に至るまで幅広い分野の編集部を経験。その後、いくつかの出版社勤務を経て、現職。

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