被害にあった宮台氏は、この男について「心当たりはない」と捜査員に答えたという。現時点では宮台氏と男をつなぐ接点は見えていない。自宅のリビングからは、父親が買ったという宮台氏の共著『おどろきの中国』(講談社現代新書)が1冊見つかったと報じられているが、男が読んだかどうかは定かではない。

 別の住民が「男を図書館で見かけましたが、そのときは没頭して本を読んでいました」と証言するように、男は近所の図書館でも目撃されている。

 図書館は男の別宅から自転車で20分ほどのところにある。図書館には、宮台氏の著書の蔵書は15冊ある(共著含む)。相模原市内の複数の図書館には計43冊もの“宮台本”があり、他の図書館からも取り寄せが可能だという。

 男は図書館で宮台氏の著書を読み、何か刺激を受けたのだろうか。宮台氏とも共演経験がある、筑波大学教授で精神科医の斎藤環氏はこう話す。

「その可能性もあるが、私は本よりもネットの影響があったのではないかと思います。宮台さんの場合、ネットでバッシングをする人もいたので、そこで辛辣な書き込みや批判的な動画などを目にすることで、何か“思い込んでしまった”可能性があります。ただ、どういう思いから襲撃を意図したのか、なぜそこまで思い詰めたのかは、今となってはわかりません」

 男が死亡したことから、犯行の動機が明らかになる機会は失われてしまった。近隣住民が語るような「ひきこもり」生活を送るなかで、何らかの妄想を抱いてしまったのだろうか。斎藤氏はひきこもりを「家族以外の他者と親密な人間関係を持たずに生活していること」と定義したうえで、こう話す。

「容疑者の状態は『ひきこもり』の要件に当てはまるように見えます。人と接しない生活を続ける中で、宮台さんに対して、妄想的な思いを募らせていった可能性は否定できません。診察してみないとわかりませんが、何らかの精神疾患を持っていた可能性もある。突如発生した妄想的な思いにとらわれて襲撃を思い立ったということも考えられます」

 容疑者は宮台氏を背後から襲い、執拗(しつよう)に刃物で切りつけており、強い攻撃性を感じさせる。両親が男を別宅に住まわせていたのは、家庭内暴力があったからではないかと推測した評論家もいる。

 そこで、別宅や実家周辺で、これまで物を壊す音や怒鳴り声を聞いたことがあったかをたずねたが、近隣住民は「言い争いはなく、静かだった」と口をそろえる。

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「宗教が無関係だったとは思えない」