「エレファント・カーブ」の図(「『不平等』な世界で資本主義を信じる)ブランコ・ミラノビッチほか著『2035年の世界地図』※Amazonで本の詳細を見る
「エレファント・カーブ」の図(「『不平等』な世界で資本主義を信じる)
ブランコ・ミラノビッチほか著『2035年の世界地図』
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 1つ目は、先進国の中間層の実質所得の増加は、非常にわずかなものだったということです。基本的には、過去30年間の平均で、1人あたり年間1%未満という程度です。伸びは弱く、人々の期待を下回るものでした。

 2つ目に、政治的な意味合いが大きかったのは、中国、インド、ベトナム、インドネシア、タイの中間層はまだ貧しいものの、先進国の中間層よりも高い所得の伸び率を享受した、ということでした。さらに、先進国でも「上位1%」の人々の所得は、非常に大きく増加したのです。

 その増加は劇的でした。例えば米国のデータを見ると、1983年から2008年の世界金融危機までは、所得階層で下から95%という大半の人々は、実質所得の伸びがせいぜい年1%未満という非常に控えめなものでした。しかし、それ以上の富裕層になると急激に増加して、2%、3%、4%、さらには6%となっていたのです。

 実質所得の伸びの結果と人々の期待は食い違い、経済的、地理的、道徳的、あるいは教育上の分断を生み出すことになったわけです。そういう意味で、これは民主主義にとっての困難をいまに至るまでもたらし続けています。

■資本主義の特徴は「無道徳」なことである

――あなたは、グローバル化とは2つの力によって推進されており、元に戻すのは非常に難しい、と主張しています。そのひとつが、道徳にとらわれない(amoral)自己利益の追求です。あなたは、法律や規則の執行者だけに頼ることによる「道徳の外部委託」に深い問題があることを指摘されていました。道徳にとらわれないグローバル化と道徳の外部委託の世界では、誰もがそのシステムにつけ込んで利益を得ようとします。私たちが直面しているこの難問をどのように克服し、道徳的目的も取り入れた代替的な資本主義の形態を見つけるべきだと思いますか。

 これはとても難しい質問です。私は、明快な答えを本当に持っていません。

 私は、『資本主義だけ残った』で書いたように、資本主義の特徴の1つは――それは今ひどくなっているのですが――「無道徳性」だと考えています。

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資本主義が「無道徳」であるとは何か?