世界銀行の主任エコノミストも務め、日本などの先進国中間層の成長率の鈍化を見破り、的確に分析したブランコ・ミラノビッチ氏。ここでは先進国中間層がなぜ没落した理由、そして、これからの資本主義を分析するために欠かせない「無道徳性」とは何か? 最新刊『2035年の世界地図』で語った資本主義の未来予想図を、本書から一部を抜粋・再編して大公開します。
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■先進国の中間層はどうして没落していくのか?
――グローバル資本主義の牙城ともいうべき米国の社会には深い断層が走り、社会構造を引き裂きつつあります。米国社会の分断を引き起こした要因は、地理的なもの、教育的なもの、そして時には道徳的なものなどがあると思います。それらはすべて、中流階級の収入の停滞と非常に密接に関連しているように見えます。これを、あなたは「エレファントカーブ(象グラフ)」によって、見事に説明されました。欧米やおそらく日本も含む先進国において、民主主義と資本主義に対する疑念が深まっていることと、冷戦後のグローバル化との関係についてお話しいただけますか。
今日の不確実性について述べるためには、少し過去に戻らなければいけません。「エレファントカーブ」は、あなたが示唆したように、豊かな国の中間層の不満や不平の事実に焦点を当てるものです。強調しなければならないのは、これが豊かな国の中流階級であることです。
なぜなのでしょうか。これは、先進国の中間層の所得が絶対値で実質的に減少したからではありません。裕福な国の中でGDPと人口の点で、最も重要な3つの国は米国、日本、ドイツです。そこには約5億人の人々がいます。これらの国の所得分布の下の方を見ると、2億5000万人です。これは大変な数です。こうした人々はグローバル化の中で、所得を減らしてしまったのでしょうか。
いいえ。実質的には、どの階層も所得が増加しました。ただ、問題は二つの側面からみることができます。