「トイレとの闘いです。人工肛門をつけていたときには排泄物はバッグにたまっていたんですが、外してからは勝手に出てしまう。まるで肛門がストライキを起こしたみたいでした。冗談抜きで1日100回トイレに行く。なのに紙おむつにも漏れ出すんです。絶え間なく便が出るので、お尻がただれて燃えるように痛い。これは本当に地獄だと思いました」
■ウィズ排泄障害でオレは生きる
肛門を温存できたとしても、機能が元に戻らないケースは少なくないそうです。
「ステージや取材の前には食べ物を調整して、排泄をコントロールできるようになりました。でも、今日だって紙おむつをつけていますよ。オレはこれから先も『ウィズ排泄障害』で生きていきます」
そして21年7月。おむつをつけたトランぺッターは、念願のステージに帰ってきました。
「プロとして恥ずかしいレベルの音です。それでもオレの目標は、間違えず最後まで演奏すること。それは果たせました」
かつての名演奏には遠いとしても、桑野さんにとって大事な大事な復活の第一歩でした。
「リーダーの左斜め後ろがオレの定位置なんです。そこからリーダーの背中を見ながら演奏して、お客さんから大きな拍手をもらえた。生きててよかったって思いました。感無量です」
手術から2年。生活習慣は大きく変わりました。
「毎朝スムージー、黒酢、黒にんにくですよ。あとは味つけしていない野菜スープも毎日食べます。早寝早起き、8時間睡眠。びっくりするほど健康で、糖尿病の先生には『私より数値がいい』とほめられました」
再発の恐怖に震えることはあるものの、現段階での検査結果は問題なし。
「でもね、人は必ず一度は死ぬんです。人生なるようにしかならないからね。でも、それまではあきらめない。頑張りません勝つまでは、ってね(笑)」
(文・神 素子)