桑野信義さん 撮影/高橋奈緒(写真映像部)
桑野信義さん 撮影/高橋奈緒(写真映像部)

 それでも自分をごまかしきれないほど体調が悪くなり、受診。検査の結果、直腸にがんが見つかりました。腫瘍は直腸をふさぐほど大きく、それが便秘の原因だったのです。リンパ節への転移もあり、ステージIIIbと診断されました。

「腫瘍が肛門に近い場所にあるので、このまま切除すると一生人工肛門をつけることになると言われました。でも、抗がん剤が効いてがんが縮小すれば、いったん人工肛門をつけても、しばらくしたら外せる可能性がある、と。一生人工肛門はいやだったので、術前の抗がん剤治療を選びました」

 抗がん剤を14日間投与し、1週間休んで1セット。これを4回繰り返しました。

「オレ、酒が強いから抗がん剤にも強いはずだよ、なんて最初は笑っていましたけど、全然そんなもんじゃなかった」

 水に触れるだけで跳び上がるほど冷たく感じる末梢神経の障害や味覚障害、ひどい下痢。急なめまいと動悸で、トイレで倒れたこともあったそうです。

「それでも頑張れたのは、目標があったからですね」

 目標とは、2021年4月から始まる結成40周年ツアーへの参加でした。

「コロナのせいで1年遅れになっちゃったんだけど、絶対に出たかった。2月に手術すれば、人工肛門のままでも4月からのライブには出られる。そう信じて副作用に耐え続けました」

 4クールの治療を終えて検査をしたところ、腫瘍の縮小が確認でき、予定通り2月に手術できることになりました。

「安心しました。でも闘いはこれからです。正直怖かったですよ。そんなときリーダー(鈴木雅之さん)からLINEがきたんです。『おまえは絶対負けない。いっしょにステージに立たなきゃ、オレたちの40周年は成立しないんだからな』『ファイトだ、桑野』って。いま思い出しても泣きそうです。そう、オレはただ生き残るんじゃなくて、ステージに帰るために生きるんだと、改めて思いました」

■手術終了。人工肛門は左右どっちにある?

 桑野さんの手術はロボット手術。傷口は小さく退院も早いのですが、手術は14時間にも及んだそうです。

「目が覚めたら全身にいろんな管がついていて、サイボーグみたいでした。それなのに手術の翌日からもうリハビリが始まって歩くんです。『無理でしょ?』って思いましたけど、コンサートに出るのが目標。なにくそ、負けないぞ!って必死に歩きましたよ」

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抗がん剤治療を「頑張らない」と決めた