大腸がんの手術から2年。ラッツ&スターのトランぺッターである桑野信義さんはいま、再発が見られない「寛解」の状態が続いています。抗がん剤の副作用、14時間の手術、人工肛門の装着、人工肛門を外してからの「地獄」の体験……それでも「多くのことを学びました」と笑う桑野さんの闘病の日々を聞きました。現在発売中の週刊朝日ムック『手術数でわかる いい病院2023』から紹介します。
【写真】手術前「だいじょうぶだぁ!」とつづった桑野さんの闘病ノート
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■先生は「大丈夫です」とは言わなかった
「大腸がんです。ステージはIIIからIVの間くらいですね」
主治医にそう告げられたのは2年半前のこと。いまでもその衝撃は忘れられないと桑野信義さんは言います。
「オレ、怖がりだし、物事を常にいいほうに考えたい人間なんです。だから先生に聞いたんですよ。まだ大丈夫ですよね? まだ間に合いますよね?って。だって3人の子どものうち、2人はまだ学生だったし、高齢の父もいる。ラッツ&スター結成40周年ライブだって控えている。死ぬわけにはいかなかったんですよ」
しかし先生は「大丈夫」とは言わなかったそうです。
「そのかわり『頑張りましょう』って。正直な先生なんですよ(笑)。だから信頼できるって思ったんですけどね」
大腸がんという診断は、桑野さんにとって青天の霹靂……ではありませんでした。心のどこかで「もしかして」と思いながら、何度も打ち消してごまかしてきた病名だったのです。
■血便も「これは痔だ」と自分をごまかし続けた
「それまでの生活が、あまりにいいかげんだったかなぁ」
桑野さんはそう振り返ります。番組収録後に朝まで飲むのは当たり前。何も食べずに飲み続け、家に戻ってコンビニ弁当を2個食べて寝る。肝臓の数値はずっと悪く、10年ほど前に糖尿病と診断されました。
「最初は真面目に運動して体重を落としたのに、数値が改善すると油断して元の生活に戻っちゃう。自分に甘いんですよ」
常におなかが不安定。便秘と下痢を繰り返し、次第に「便意があるのに、トイレに行っても何も出ない」というひどい便秘に。そのうち血便が出るようになりました。
「心のどこかで『これはヤバイ』って思ったはずなんですけどね、『下痢のせいで肛門が切れたんだろう』と自分に言い聞かせたり『痔になったんだ』って思い込もうとしたり」