ベネズエラ出身のデリオ・モイセス・マルティネスさん(63)は、同福祉会の特養ホーム、クロスハート栄・横浜で働いて10年以上になる。外国人の中でも最も長く働いている一人。もともと電話会社で働く技師で、03年に来日した。身内に看護師など病院関係者が多く、人とふれあう仕事がしたいとヘルパーの資格をとり、最初は病院に転職し、それから今の施設に移った。

 30人近くを担当して、食事や入浴、トイレなど身の回りの世話をしている。

「私は人が好きなので、ここでお年寄りのお世話をするのは天職のように思えました」

 もちろん苦労はある。

「なじみのない介護の専門用語だけでなく、利用者さんがベッドから車イスなどへ移動するお世話をするときに、不適切な抱え方でケガをさせてしまうのではという不安は常にあります。最近ようやく自信がついてきて、自分でも以前より格段に良いと思えるようになりました」

 マルティネスさんは自分の仕事を「お年寄りを楽しませること」と表現する。

「私が笑えば、お年寄りも楽しく笑ってくれます。それが一番です」

 日本はこれから金さんやマルティネスさんのような外国人の介護職が増える一方だろう。どうしたら習慣や文化の違いを超え、介護をする側とされる側が良い関係をつくっていけるのか。

 マルティネスさんは「とにかくずっと笑顔でいること。それが秘訣(ひけつ)です」と強調する。

「それから相手の言うことに耳を傾け、何事も辛抱強く時間をかけること。話すときは適当なほうを向くのではなく、きちんと顔を見て、表情を確認しながら会話をする。人間として基本的なことです」

 マルティネスさんが強調していたように、外国人に限らず、同福祉会の施設では利用者にもスタッフにも笑顔が多かった。

 様々な国の出身者がともに気持ち良く働く秘訣は何か。70年代からの歴史がある上、採用に時間をかけ、対等な気持ちで接し、支援する外国人スタッフもいる、といったあたりがカギのようだ。

 足立理事長は「いずれ日本に定住した外国人が入りやすい、多言語対応の老人ホームを作りたい」という。施設の誕生まで、そう時間はかからないだろう。(朝日新聞編集委員・秋山訓子)

AERA 2020年3月2日号より抜粋