元朝日新聞記者でアフロヘアーがトレードマークの稲垣えみ子さんが「AERA」で連載する「アフロ画報」をお届けします。50歳を過ぎ、思い切って早期退職。新たな生活へと飛び出した日々に起こる出来事から、人とのふれあい、思い出などをつづります。
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突然だが、いまフィンランドの古都を一人旅しております。
なぜフィンランドかといえば、たまたま様々な縁が重なっただけなのだが、なぜこの季節なのかには明確な理由がある。限りある人生を考えればこの先同じ場所にまた行けるかはわからない。だとすれば、せっかく行くなら「一番その国らしい時期」に行きたかった。となればやはり冬だよね、雪だよね。
ところがななんと……雪がどこにもないじゃないの!
民泊で部屋を貸してくれた女性によると、雪のない冬なんて初めてで、気候変動の影響じゃないかと皆心配しているとのことであった。いやどう考えてもこれは異常気象でしょう。雪のないフィンランド? サンタは? と思ったらサンタの出身地方は異常なドカ雪らしい。何れにしても 尋常ならざる事態だ。
恥ずかしながらこれまで、この問題をあまりちゃんと考えてこなかった。北海道も雪不足で「雪まつり」がピンチと聞いても、観光が大変ということしか想像が及ばなかった。でも影響はさらに深刻に違いない。気候が変われば作物を育てる前提が変わる。土地ごとに長い時間をかけ蓄積してきた経験値が役立たなくなる。災害といえば台風や洪水のことばかり気にしていたが、気温が1度変わることそのものが、人が生き延びる上で大災害ではないか。
そんなことを考えたのも、当地では食べ物のありがたさを考えざるをえないのである。今でこそ冬でも緑の野菜が輸入で手に入るが、もとはジャガイモやカブで生き延びてきたと聞く。パンは寒冷地でも栽培可能なライ麦で作った酸っぱいものである。人はそもそもこのように自然に間借りし、工夫して助け合い生きてきたのだと気づかされる。だが今や、人類は欲望を制御できなくなり自然そのものを曲げつつある。あまりに恐ろしい事態である。
かくいう私も、飛行機とWi-Fiとアップルのおかげでここにいる。どこまで便利を求めるか。生き方を問われているのは自分自身でもある。
※AERA 2020年2月17日号