「T字路s」の伊東妙子(右)と篠田智仁/スペースシャワー・ミュージック提供
「T字路s」の伊東妙子(右)と篠田智仁/スペースシャワー・ミュージック提供
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戸塚演じる主人公の鳥山が「さぼうる」でくつろぐ/フジテレビション提供
戸塚演じる主人公の鳥山が「さぼうる」でくつろぐ/フジテレビション提供

 この2月からちょと気になるショート・ドラマがスタートした。CSチャンネル「フジテレビTWO」で放送中の「純喫茶に恋をして」。人気を集めた「孤独のグルメ」のスタッフによるもので、わずか20分程度ながら実在する喫茶店を舞台とした一話完結のユーモラスな物語だ。

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 ストーリーもさることながら、このショート・ドラマを豊かにしているのがエンディング曲である。エンドロールが流れるタイミングで聞こえてくるのは「T字路s」のほろ苦い歌声。悲喜こもごも溢れる純喫茶の味わいを二人のヒューマンな歌が情緒豊かに描く。「T字路s」は伊東妙子(ギター、ヴォーカル)と篠田智仁(ベース)による男女デュオ。泣いているようにも笑っているようにも聞こえる伊東のしゃがれた声と、言葉とメロディーを暖かく包むような篠田のベースが、ブルーズ音楽の持つ本質的な哀しみや痛み、それらを乗り越える強さと優しさ、その末に訪れるであろうハピネスと充足感を表現する。

 エンディング曲のタイトルは「これさえあれば」。2013年に発表された彼らの代表曲だが、「すべてをなくしてしまってもこれさえあれば平気」というメッセージが、聴く人それぞれが最も大事にしているものをあぶり出す。

 それは一杯の美味しいコーヒーかもしれないし、目の前で一緒に味わいながら会話を楽しむ大切な人かもしれない。3月21日に恵比寿リキッドルームで結成10周年の記念イベント・ライヴを開く「T字路s」の二人にしてみれば、ブルーズという音楽こそが「これさえあれば」いいと思える宝物かもしれない。実際、彼らのライヴに足を運ぶと、二人が音楽を「肴」にして宴を開いているような気持ちになる。開放的だけど時々ホロリとさせられるパフォーマンスに、思わずビールが進む。いや、このドラマを観た後だとコーヒーを飲みたくなるかもしれない。「T字路s」の演奏や作品は、古今東西、コーヒーや酒……つまり喫茶店やカフェと音楽には切っても切れない縁があることも伝えているのだ。

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岡村詩野

岡村詩野

岡村詩野(おかむら・しの)/1967年、東京都生まれ。音楽評論家。音楽メディア『TURN』編集長/プロデューサー。「ミュージック・マガジン」「VOGUE NIPPON」など多数のメディアで執筆中。京都精華大学非常勤講師、ラジオ番組「Imaginary Line」(FM京都)パーソナリティー、音楽ライター講座(オトトイの学校)講師も務める

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喫茶店を舞台にしたあの名曲は