果汁たっぷりチーズケーキ風 リンゴのクラフティ(写真:本人提供)
果汁たっぷりチーズケーキ風 リンゴのクラフティ(写真:本人提供)
【レストランシェフ、パティシエール】神谷隆幸さん(41)、クレールマリさん(29)/神谷さんは南仏ニースの人気レストランHANgout(閉店)の元オーナーシェフで、昨年12月に同カーニュにLa Table de KAMIYAを開店。妻のクレールさんはイチゴのコンフィチュールが2018年、世界一に選ばれた(写真:本人提供)
【レストランシェフ、パティシエール】神谷隆幸さん(41)、クレールマリさん(29)/神谷さんは南仏ニースの人気レストランHANgout(閉店)の元オーナーシェフで、昨年12月に同カーニュにLa Table de KAMIYAを開店。妻のクレールさんはイチゴのコンフィチュールが2018年、世界一に選ばれた(写真:本人提供)

 料理のレシピの力で被災した農家を支援したい。昨年秋、フランス在住のシェフのつぶやきから始まった取り組みが、広がっている。キーワードは「#CookForJapan」。作って食べて味わうことも、応援だ。AERA 2020年1月27日号では、被災農家を応援する料理人やパティシエの活動を取材した。

【写真特集】美味しく食べて被災農家を支援「#CookForJapan」特選レシピ20はこちら

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 南仏カーニュでフランス料理店を経営する愛知県出身のシェフ、神谷隆幸さん(41)は昨年10月、ツイッターに台風19号のニュースが次々と流れるのを見て、息をのんだ。記録的な大雨により、あちこちの河川で堤防が決壊。多くの家が壊れたり、浸水したりしていた。田畑も水につかり、リンゴをはじめ多くの農作物も大変な被害に遭っていた。

「ただ『被災農家から買って』と頼むのではなく、おいしい食べ方を紹介すれば買ってもらえるのでは」

 妻でパティシエールのクレールマリさん(29)からリンゴを使った焼き菓子「タルトタタン」のレシピを教わり、被災した農家からリンゴを買った人に無料でレシピを提供すると決めた。伝票などの写真をダイレクトメッセージで送ってもらうことが条件だ。

 同月23日、ツイッターで「被害に遭われた農園のりんごをまだ買えるならそこで買ってタルトタタン作ってくれたらちょっと嬉しいです」とつぶやいた。タルトタタンを選んだのは、クレールさんがオンライン菓子教室で教えたばかりだったことに加え、ツイートに添えた写真の直径20センチ(8人分)のタルトでも、小ぶりのリンゴを12~14個も使うからだ。

 神谷さんが支援を言い出したのには訳がある。2016年7月、南仏ニースで経営していたレストランから数百メートルの場所で、90人近くが犠牲になったテロが起き、客足が途絶えた。2日後にはスタッフと「来年末で閉店しよう」と話し合った。

「街から人が消えて移転を決めざるを得なかったので、台風で農家のみなさんが抗(あらが)えないものに生活を奪われた気持ちは分かる。日本に住んでいないので、災害のニュースを見る度に何もできない負い目を感じていた。今回も直接買うことは難しいけれど、人と人とをつなげられるかなと思った」

 料理人が被災地に行って炊き出しを行う支援は昔からあった。神谷さんが新しいのは、価値ある「ソフトウェア」であるレシピを提供することで、現地に行かずとも支援できる方法を提案したこと。情報もツイッターを使ってスピーディーに拡散した。

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