

元朝日新聞記者でアフロヘア-がトレードマークの稲垣えみ子さんが「AERA」で連載する「アフロ画報」をお届けします。50歳を過ぎ、思い切って早期退職。新たな生活へと飛び出した日々に起こる出来事から、人とのふれあい、思い出などをつづります。
【写真】亡くなった中村哲さんを悼みキャンドルをともす有志たち
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ペシャワール会の中村哲さんが亡くなった。夕方のラジオで訃報を聞いた時、神様やめてくれ、と思った。お会いしたこともないし、恥ずかしながらその活動の詳細を知っていたわけでもない。でもなぜか折に触れ、中村さんのことを考えることがあった。一人の人間ができることの限界と、だからこその可能性と。それを身をもって実行した中村さんに憧れ、自分なりに影響を受けていたのだと思う。
翌日、東京は快晴だった。大きな人を失っても世界は続いていく。新聞で事件の詳細と、中村さんの人生を読む。
改めて知ったのは、中村さんはいわば偶然、流れ流れて今の活動にたどり着いたということである。昆虫好きで、珍しいチョウが見られるかもと山岳会の遠征隊に医師として参加。なのにパキスタンの村で「医師が来た」と歓迎され、しかし間に合わせの診療しかできず、その後ろめたさから現地を繰り返し訪れることになった。そしていつしか井戸を掘る人になり、世界を確実に変えたのである。