国際結婚をした研究者の女性は、まさにそのパターンだった。彼は化学の博士号を持ち、留学生の彼女に優しく英語を教えてくれるジェントルマン。ある時、女性のいる日本行きの飛行機に乗る直前、彼の父親が心臓発作を起こした。一大事と思いきや、彼は予定通りの飛行機に乗ってやってきた。
「えっ?と思いましたが、当時はなんて情熱的でピュアな人かしらと。今思えば、ほかにも突飛な行動は数々あったのですが、国際結婚だと脳の特性ではなく『文化の違い』と勘違いすることも多いんです」(女性)
ではなぜ、アスペルガーの特性を持ちながら社会には十分適応している人たちが、結婚した途端、妻を奈落の底に突き落とすような言動をとるのか。
野波さんによると、彼らは、対人関係やコミュニケーションの苦手さを、経験上うまくいった「パターン」を記憶することでカバーしている。これが社会で生きていくための「外モード」。でもそれは本来の自分ではなく、かなり無理をしているので、ストレスもたまる。だから家では、素の状態でいられる「内モード」で過ごしたい。
「恋人時代は他人だし好かれたいから『外モード』で接しますが、結婚すると『内モード』になります。アスペルガー特性のある人はその落差が激しいので、妻からすれば恋人時代によかった点が全部なくなってしまったように感じます」(野波さん)
夫は自分の実家にいる時と同じ内モードになりたいが、妻と営む家庭では、夫婦間の暗黙の了解や思いやり、夫と父親の役割の臨機応変な使い分けなど、彼らが最も苦手とすることが期待される。それに応えないと、妻は怒る。察するのが苦手なので「言ってくれないと困る」と言えば、いちいち指示され、「うるさい!」となる。悪循環だ。
この絡まり合った問題を解決するにはどうすればいいのか。カサンドラができる第一歩は、自分の苦しみの理由を客観的に捉えるために、講演会や自助グループの会合に行ってみることだ。専門家がいれば、カウンセリングも有効だ。
カサンドラ症候群に苦しむ女性(32)は野波さんの講演に行ったあと、両親やきょうだいにカサンドラについて詳しく話し、単なる夫婦げんかではないことを理解してもらった。両親からは「わかってあげられずに、申し訳なかった」と言われたという。