撮影/写真部・片山菜緒子
撮影/写真部・片山菜緒子
図版は取材を元に編集部で作成(AERA 2019年12月23日号より)
図版は取材を元に編集部で作成(AERA 2019年12月23日号より)

 高血圧はさまざまな命に関わる病気を招くリスクを抱えている。「サイレントキラー」と呼ばれ、自覚症状がなく進行することもあり厄介だ。高血圧は不規則な生活や食習慣が主な原因だと思われがちだが、実は職場での過重労働によるストレスも見逃せない。AERA 2019年12月23日号では、ストレスと血圧の関係について解説する。

【図を見る】血圧は行動や環境で変動する?

*  *  *

 そろそろ家だな、と思ったとき右膝の力が抜け、“膝カックン”されたような感覚がした。

 昨年2月13日、3連休明けの朝8時、よく晴れた寒い日だった。出版社に勤める男性(48)は出勤前の犬の散歩中、突然右半身に力が入らなくなった。頭がクラクラし、右手に持っていた犬のリードが手から離れた。

 なんとか自宅にたどりつき、妻に犬を預けて近所の内科に向かった。普段は徒歩4分の道のりが、何倍も長く感じた。すぐに診察室に通され、血圧を測ると198mmHg/110mmHg。「脳梗塞の疑いがある」と言われ、救急病院に搬送された。

 診断結果は、ラクナ脳梗塞。高血圧により、脳の細い血管が詰まることで起きる。自覚症状がないことも多く、ダメージが蓄積すると認知症になることもある。

 ここ数年、健康診断を受けていなかったが、2011年ごろに血圧が高いと言われたことを思い出した。そのときは降圧剤を処方され、1カ月ほど飲み続けた。血圧が下がってそのままにしてしまったが、治療を継続すればよかったのか……。

 幸い、男性の脳梗塞は場所がよく、それほど重症ではなかった。入院はせずに生活指導やリハビリのアドバイス、薬を処方されて帰宅した。よく知られるように高血圧は生活習慣病だ。遺伝や体質によるところもあるが、塩分のとりすぎ、肥満、暴飲暴食、運動や睡眠の不足などで引き起こされる。男性はその日から不規則だった食事や生活習慣をガラリと変えた。

 ごはんは1食あたり茶碗半分~1杯程度、1日あたり塩分6~8グラム、1600キロカロリーに制限した。酒とたばこもやめた。リハビリのためにとにかく歩き、趣味の電子ドラムを叩いて手を動かした。右手右足の機能は少しずつ回復し、95キロあった体重は2カ月半で87キロにまで落ちた。ただ、血圧だけは一向に下がらず、150~180mmHg/80~90mmHgのままだった。降圧剤を強いものに変えても、効果はなかった。

著者プロフィールを見る
小長光哲郎

小長光哲郎

ライター/AERA編集部 1966年、福岡県北九州市生まれ。月刊誌などの編集者を経て、2019年よりAERA編集部

小長光哲郎の記事一覧はこちら
次のページ