3本のトリプルアクセルすべてを降りても、優勝には手が届かなかった。NHK杯で、紀平梨花が新たなライバルから学んだものとは。NHK杯の裏側を取材したAERA 2019年12月9日号の記事を紹介する。
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フィギュアグランプリ(GP)シリーズNHK杯女子のメダリストは予想通りの顔ぶれだった。会見に最初に現れたのは、2位の紀平梨花(17)と3位のアリーナ・ザギトワ(17)。紀平が最初に笑顔で答える。
「今回、ショートもフリーも自分のなかでは良い演技ができました。でもミスがなくても1位になれなかったと思うくらい、厳しい戦いでした」
ザギトワはショート4位から巻き返しての銅メダル。17歳にして次世代に追われる平昌五輪女王は、表情を崩さずに答えた。
「ショートの後、落ち込みましたが、コーチの皆さんが優しい言葉をかけてくれて、気持ちを落ち着けてフリーに取り組むことができました」
すると、優勝したアリョーナ・コストルナヤ(16)が遅れて到着。写真撮影が終わると、一言も話さないうちに壇上から降りた。優勝者への称賛には興味がない様子で、早々に帰ろうとスーツケースを転がしてみせる。やっとマイクの前に座ると、スマホ片手に答えた。
「自分の演技に満足しています。トリプルアクセルのミスは次の試合で取り返せると思います」
三者三様。今月行われるGPファイナルへの序幕ともいえる緊張感が漂った。
NHK杯は、今季シニアデビューしたロシアの4回転ジャンパー2人が不在で、紀平とコストルナヤによる、トリプルアクセル対決に注目が集まった。
ショートは、コストルナヤの完成度の高さが炸裂した。トリプルアクセルは難しいステップから踏み切り、連続ジャンプは高さがあり最高の「+5」評価が五つ。史上最高の85.04点をマークした。しかし紀平は臆さなかった。
「コストルナヤ選手のジャンプや滑りの質の良さから、85点はあり得ると思っていたので『ああ完璧にできたんだな』と思いました。むしろ、スケーティングもステップもジャンプの質の良さも、私も見習えば(史上最高点を)狙えると思いました」