「解像度だけいくら大きくしても欠落する情報があります。アートは人知・技術の最高峰作品なのに、デジタルの均一な技術で記録できると思うほうが間違っている。作品ごとに記録や処理方法も変えなければ、最高峰の質は確保できません」

 久保田さんは、解像度は横軸だという。横軸に対してもう一つ、3次元の微細な情報を集める縦軸「DTIP(超高品位質感情報記録処理技術)」を開発し、3次元情報を2次元に落としこむことに成功した。

「それには脳科学も研究しました。平面の映像を立体と認知する条件を調べて、その微細な値を入力すると脳は騙(だま)される。それがDTIPで、私たちの技術の核です」

 同社は、この技術を使ってパリ・オルセー美術館の印象派作品100点もデジタル化している。作品を拡大すると、作家のマチエール(筆さばき)がはっきりと見える。こうしたことから、かねていわれてきたジャポニスムと呼ばれる浮世絵と印象派の関係にも、新たな提言ができると久保田さんは言う。

「たとえば北斎が描いた『風』をモネも描いているし、筆の刷毛目を縦横に塗り分けて遠近感を出す北斎の技法とセザンヌの技法は酷似しています。ぜひ専門家に検証していただきたい」

 NTT東日本はこの技術に着目し、各地の文化財をデジタル化してそれぞれの地域の同社の通信ビル内に集積。それらを先進テクノロジーを用いて発信していくことで、新しい形の地方創生を目指す。

 今年は北斎没後170年。来年は生誕260周年。江戸時代最高峰の絵師と摺り師や彫り師の技術が、現代の最先端の技術で蘇(よみがえ)った。(ノンフィクション作家・神山典士)

AERA 2019年12月2日号

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