桜の花びらが浮かび上がる「東海道品川御殿山ノ不二」/作品を拡大すると中央の桜の花びら一枚一枚の盛り上がりがよくわかる。摺り師が和紙の裏側から盛り上げる「キメ出し」技術だ。湖面には木目が使われるため、版木も吟味されたことがわかる(写真:アルステクネ・イノベーション提供)
桜の花びらが浮かび上がる「東海道品川御殿山ノ不二」/作品を拡大すると中央の桜の花びら一枚一枚の盛り上がりがよくわかる。摺り師が和紙の裏側から盛り上げる「キメ出し」技術だ。湖面には木目が使われるため、版木も吟味されたことがわかる(写真:アルステクネ・イノベーション提供)
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 葛飾北斎の代表作「冨嶽三十六景」が、20億画素という解像度でデジタル化された。実に、最高級デジタルカメラの約100倍だ。桜の花びら一枚一枚、水しぶき一粒一粒が、鮮やかに蘇る。デジタル技術が生まれた背景と、今後さらに期待できることを探った。AERA 2019年12月2日号の記事を紹介する。

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「これは凄い。画期的な展示ですね。北斎の筆遣いや浮世絵の摺(す)り師、彫り師の技術のディテールを、こんなに間近に肉眼で見られるなんて」

 北斎研究家で元すみだ北斎美術館学芸員の五味和之さん(61)が驚きの声をあげた。

 東京・初台にあるNTT東日本ICCギャラリーで、来年3月1日まで開かれている「デジタル×北斎 序章」展。20億画素という、最高級デジタルカメラの約100倍の解像度で、葛飾北斎の代表作「冨嶽三十六景」をデジタル化し、プリントや、サイネージ(デジタル看板)で展示している。

 デジタル化されたのは、山梨県立博物館が所有する「冨嶽三十六景」全47点。初摺りで、希少な甲州石班沢(かじかざわ)の藍摺りを含めたコレクションは国内屈指の保存状態と言われ、新千円札やパスポートの画像にも使われた。

 オリジナルの浮世絵は通常約25センチ×40センチ程度の大きさだが、ここでは約1.2メートル×2メートルに拡大してプリント。光を当て、一部はルーペで拡大して見ることができる。その結果、後述する「質感制御技術」によって、平面でありながら和紙に立体感を加える「キメ出し」と呼ばれる表現も、鮮やかに浮かび上がってくる。北斎の微細なタッチや、江戸時代の彫り師や摺り師の超絶技巧が肉眼でよくわかる展示なのだ。五味さんが続ける。

「浮世絵は紫外線に弱いので、光に当てると1時間でも色が飛ぶといわれます。原画の保存を考えたら、できれば公開したくない。でもデジタル作品ならそれができるし、拡大して間近で見れば新たな発見もありますね」

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