歌への静かな思いを集中させた、唯一無二の存在としてシンパも多い「空気公団」。昨今、見直されているAOR(アダルト・オリエンティッド・ロック)やシティ・ポップといったソフト&メロウで都会的なポップスへの踏み込みを、いちはやく洗練されたオリジナル曲と透明感あるヴォーカルで形にしてきた。
当初はライヴにそれほど積極的ではなかったものの、独自の見せ方、聴かせ方を丁寧に模索しながら、スタジオ録音アルバムのリリースと並行して活動を展開。大貫妙子や吉田美奈子といった“大先輩”の後継者のような高い評価を得てきた。気がつけば登場してから20年以上が経過、現在は独自のレーベル「フワリ」から作品を出している。
「空気公団」を圧倒的な歌唱力と表現力で支えるヴォーカルの山崎ゆかりが、初のソロ・アルバム「風の中にうたう」をリリースした。現在は「空気公団」自体が山崎のソロ・プロジェクトとなっているが、この作品はヴォーカリスト=山崎ゆかりの存在を、いま一度認識させてくれる重要な作品だ。
実は、山崎の表現力が生かされる場は、そもそも「空気公団」だけではない。紡がれたばかりのシルクのような、滑らかなタッチの声質を生かしたナレーションの仕事でも存在感を発揮する。どこかに翳りを秘めたメロディーを得意とするコンポーザーとして、ほかのアーティストに曲の提供もしている。
新しいところでは、アイドルNegiccoのKaedeが今年6月に発表したミニ・アルバム「深夜。あなたは今日を振り返り、また新しい朝だね。」で、「飛花落葉」の作詞と作曲編曲を担当した。また、絵本作家の荒井良二との共同制作で絵本『トントンドア』を発刊したこともある。
今回、山崎が初ソロ作「風の中にうたう」で力点を置いたのは、「歌の人」「言葉の人」としての自分だ。全7曲中、山崎が作詞作曲全てを担当したのは「ひとりにしないよ」のみ。つまり、ほぼほかのアーティストたちの曲をヴォーカリストとして歌唱するという作品になっている。