そんな理想にも似た彼女の思いを可能にするのは歌、声、そして言葉。だから、ここで彼女は作曲家としてのチャンネルをほぼ封印し、作詞のみに専念した。「Long Goodbye」(麻生哲朗が作詞)を除くすべての曲で山崎自ら作詞を手がけているが、その曲に合った、そして彼女の声が求める言葉が丹念に選ばれている。

 シルキーな声質を生かしたまま、ゆっくりとたゆたいながら言葉を置きにいくように歌う山崎。その横顔はピンと背筋が伸びているかのように凜々しいが、一方で、まるで色彩を立体的に与えていくタペストリー作家の仕事のように寡黙な営みも感じさせる。

 おまけに、山崎はスキルの高い演奏、高品質のレコーディングを徹底的に追求する。エンジニアに据えたのは、蓮沼執太、柴田聡子、スカート、岡田拓郎といった注目の若手アーティストの作品で録音の底上げを図っている葛西敏彦。彼のもと、千ケ崎学(KIRINJI)、澤部渡(スカート)、佐藤望(カメラ=万年筆/orangeadeほか)、五味俊也(キヲク座)ら贅沢なバッキングを得てレコーディングした。

 インディー制作の歌もの作品にありがちな手作り感に甘んじない。その妥協なき姿勢が、ウェルメイドで洗練されたポップ・ソングをドレスアップさせている。

 今年に入ってからは、吉野友加(tico moon)、中川理沙(ザ・なつやすみバンド)というそれぞれに活躍する女性アーティストと3ピース・グループ「ユカリサ」(3人全員の名前が含まれている!)を結成。ライヴ活動もスタートした。

 「空気公団」の次なるステージも期待される中、音楽活動を開始して20年以上の歳月を経て新たにたどり着いた歌うことへの新境地。それは、もしかすると彼女にとってあくまで原点を確認する、さりげない作業なのかもしれない。(文/岡村詩野)

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