※写真はイメージです(gettyimages)
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濱木珠恵医師
濱木珠恵医師

 白血病などの抗がん剤治療や造血幹細胞移植で免疫がなくなってしまった患者に対し、日本ではワクチンの追加接種が一定期間、認められていない。世界的には認められているが、なぜ日本人だけ打たなくていいのか、ナビタスクリニック新宿院長の濱木珠恵医師が警鐘を鳴らす。

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 小児がんから治った子どもが危機にさらされているという話を聞いた。

 石嶋瑞穂さんという知人がいる。彼女の長男は、小児白血病を患い、約1年間、入院での闘病生活を過ごした。その後、石嶋さんは子どもや家族のケアに焦点をあてた「チャーミングケア」活動を始めた。

 昨年10月、その長男が水痘(水ぼうそう)に罹った。白血病を発症する前に予防接種はしていたものの、白血病治療の影響で免疫が消えてしまっていた。

 抗がん剤治療を終えてから3カ月しか経っておらず、追加接種ができない期間であり(医師からは6カ月以上経過しないと効果が期待できないと説明された)、体力も十分回復していなかったのか、水痘は重症化し、入院が必要となった

 息子さんは、耳や口の中まで発疹が出現し、3日間も高熱が続いた。さらに弟さんの三男も発症し、ご家族はさぞかし大変だったろう。不幸中の幸いだったのは、罹ったのが水痘だったことだ。水痘には治療薬(抗ウイルス剤)が存在する。

 もし、麻疹だったらどうなっただろう。

 麻疹に有効な抗ウイルス薬は存在しない。肺炎や脳炎を合併し、後遺症が残ることもある。時に死に至る。麻疹を予防するにはワクチンを打つしかない。

 石嶋さんのようなケースは氷山の一角だ。抗がん剤治療や造血幹細胞移植を受けた患者や家族は、感染症の流行にはいつも神経を尖らせている。

 しかし、小児がんで抗がん剤治療や造血幹細胞移植を受けた子どもたちにワクチンの再接種が必要ということは世間にあまり知られていない。過去に予防接種をしていても、抗がん剤で治療すると免疫がなくなってしまうのだ。

 さらに、治療を完了してから一定期間を経て、やっと再接種できる時期がきても、別のハードルがある。通常、麻疹や風疹、3種混合などの予防接種法で実施される定期予防接種は、国が費用を負担する。このため各自治体で実施されている定期接種は無料だ。しかし、抗がん剤治療後に追加接種を受けようとすると、通常の定期接種とは接種する時期がずれたり回数が異なったりするため、公的補助が受けられず自己負担になってしまうのだ。

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自費接種では20万円以上かかる計算も