川村医師は、うつ病の本質を「過度の億劫さ」と定義。うつ病を招いているのが、主に神経伝達物質「ノルアドレナリン」の減少だ。人の社会性と関係のある物質で、減れば仕事や家事などの社会生活に支障をきたす。09年、慶應義塾大学発のベンチャー企業との共同研究で、PEAが「億劫さ」と関係しており、バイオマーカー(生物学的指標)となりうることを見いだした。

「PEAが、主に社会性を司るノルアドレナリン機能や喜びを司るドーパミン機能と関連していた。値が低ければ、それらが足りないと言うのと一緒です」

 11年からは臨床研究が始まった。院内の患者ではすでに3891人(9月時点)がPEA検査を受けている。

 また、別の共同研究では、うつ病の時に、脳の「前頭葉」でPEA濃度の変化が起きていることがわかってきているという。

 来院患者のうち、継続してPEA検査を受けている人の8割強は、1年半から2年以内に治療を終える。だが、治療が長引く人もいる。その要因は、発達障害が引き金となったうつ病、強いストレスが続いている環境、アルコール摂取などだ。

「何らかのストレスがずっとある人は治りにくい。仕事のミスマッチと、ストレス源になる上司や同僚は、職場にうつが蔓延する2大要素」(川村医師)

 村井さんも、職場の人間関係によるストレスが強かった。発症当時は、エネルギーマネジメントシステムを販売する会社の「半分雇われ社長」。上にはCEOとしての会長が控えていた。

「会社が苦境に陥り、最後は経営者失格と言われた。僕はピラニア上司に食べられてしまう水槽の魚みたいなものでしたよ」

 村井さんは今、自分自身がピラニアだったこともあると気づいた。社長時代、一人の営業本部長をパニック障害になるまで追い込んだことがあるからだ。

「私を追い込んだ会長にもまた、別のピラニアがいた。日本のサラリーマン社会でうつ病を引き起こしているのは、『全人格的労働』でプレッシャーを全部下へと下ろしてくる構造ですよ」

 村井さんは、うつ病を経験して人に優しくなれたと高らかに言う。今では「ピラニア上司」に感謝の念さえある。「僕の場合、うつ抜けどころじゃない。『うつ突き抜け』。もう最強ですよ(笑)」

(ノンフィクションライター・古川雅子)

AERA 2019年10月14日号より抜粋

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