「“曲のなかでは好きなことを言う”と決めている」と語る秦 基博さん(撮影/写真映像部・高橋奈緒)
「“曲のなかでは好きなことを言う”と決めている」と語る秦 基博さん(撮影/写真映像部・高橋奈緒)

「“Paint Like a Child”は以前から好きな言葉だったんです。ピカソは幼少期の写実的な作品からはじまって、いろいろと作風を変化させながら、晩年にはまさに子供が描くようなピュアな絵にたどり着いたと言われている。それは表現者の理想だなと。ただ、今の自分が子供のように音楽と戯れるのは無理なんですよ、子供じゃないから(笑)。そうではなくて、自分の欲求に従って表現を突き詰めた先に、ピュアな状態があるんじゃないかなって」

■“曲のなかでは好きなことを言う”と決めている

 自らの表現を自由に追求したい。その思いは、アルバムに収められた楽曲の歌詞にも反映されている。そのことをもっとも端的に示している楽曲が「2022」。<熱に浮かされた街/馬鹿騒ぎした祝祭の後>というフレーズではじまるこの曲の背景にあるのは、2022年の東京の雰囲気だ。

「2022年の東京の街並みと、そこに流れていたムードを描きたいと思って『2022』の歌詞を書きました。社会に対して思うこともありますが、この曲では目の前にいる人との対話だったり、“この人とつながっていたい”という思いに帰結させています。自分のなかでスタンスは一貫していて、“曲のなかでは好きなことを言う”と決めているんです。社会的なことに限らず、言いたいことやメッセージしたいことがあるときは、SNSなどではなく、音楽として表現する。なぜなら自分はミュージシャンであり、シンガー・ソングライターなので」

「太陽のロザリオ」も彼自身の心境が率直に表れている楽曲だ。シンガー・ソングライターとして着実に実績を重ね、音楽シーンのなかで確固たるポジションを得ていても、<もう嫌になるよ 生きるのが下手でさ>という思いにとらわれる瞬間がある。それでも日常は続くし、明日になればまた一日がはじまる。そんな普遍的なメッセージが込められているのだ。

「落ち込んでいる人の歌ですよね(笑)。しんどい、何もしたくない、なんで自分はこうなんだ……という瞬間はもちろん自分にもありますが、結局、“やっぱり生きていこうとしてるんだよな”と思うんですよ。たとえ人が生きることに何の意味もなくて、答えもないとしても、それでも明日がくればその日を生きる。ただそのことを歌っている曲ですね、『太陽のロザリオ』は」

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