次に、医師が勧める治療法に対する不信感が強く、ネット情報や民間療法に頼るケースを考えてみよう。患者がなぜそんな行動に走るのかは、やはり行動経済学にヒントがある。

 共著書『医療現場の行動経済学:すれ違う医者と患者』がある大竹文雄・大阪大学大学院経済学研究科教授によれば、「怖い」などの負の感情があると、「確実に治るとは限らないのでは」と強く感じ、とにかくリスク回避を考えるようになる。リスクを前提とした医学・統計的説明より、「あの人が助かった」「テレビでこう言っていた」という確定済みの情報を信じたくなるという。

 医師アンケートでは「抗がん剤の副作用を怖がるあまり、有効な治療ができず死亡した」という事例が目立ったが、前出の中山医師は「副作用、特に吐き気は、近年、吐き気どめの薬の急激な進歩により驚くほど改善している」と指摘する。自分が信じている情報が古い可能性は大いにある。「最新で根拠のある情報」のありかを普段から知っておくのも、必要な心得だ。

「がん患者の2人に1人は利用している」というデータもある民間療法についてはどうか。医師アンケートでは「エビデンスがないものを信じるなんて」と苦言を呈する意見が多かった。

 だが、血液・腫瘍内科学が専門で、医療ガバナンス研究所理事長の上昌広医師は、「多くの患者が民間療法に走るのは、致し方ない事情がある」と話す。

「標準治療で思うような効果が得られなかった場合、アメリカでは最先端の療法の臨床試験が多くの病院で行われているので、そこに参加するという選択肢が患者にあります。ところが、日本では臨床試験が限られた病院でしか行われておらず、患者の選択肢があまりに少ない。医師から諦めろと言われても諦めたくない。そんな患者や家族が一縷(いちる)の望みをかけて、民間療法を選んでいるのです」

 上医師自身も他の大多数の医師同様、「民間療法のほとんどは効果がない」とみるが、気功などで「患者の心が落ち着くのであれば構わない」と考えている。

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