アメリカにも母子手帳に相当するものはあるんですが、携帯・記入は必須ではありません。ウェブ上にデータが保管されているからです(写真/本人提供)
アメリカにも母子手帳に相当するものはあるんですが、携帯・記入は必須ではありません。ウェブ上にデータが保管されているからです(写真/本人提供)
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 先日、日本で母子手帳のアプリ化が話題になっていました。全体的には「完全アプリ化するのも紙だけに頼るのも、どちらもデータが失われる可能性がある。紙と電子、両方で残しておけると安心・便利だよね」という論調だったと思います。

 アメリカも、まさに紙・電子の両方で残す状態になっています(『アメリカ』といっても、わたしが知っているのは以前住んでいたワシントン州と現在住んでいるアラバマ州の事情だけなんですが)。ただ、アプリは使われていません。銀行の入金出金、友だちとのワリカン、タクシー手配、なんでもアプリで済ませるアメリカでも、子どもの生涯を通じて使うことになるかもしれない情報まではアプリに託していないのです。
 
 アプリじゃないならどうしているのかというと、電子データが小児科・保健所で保管されています。そもそもアメリカでは、日本の母子手帳ほど細かに発達具合を記録することはなく、データとして残されるのは「身長・体重・心拍数といった発育の記録」と「予防接種の記録」の2種類だけです。「発育の記録」はかかりつけの病院や小児科医院で数年間、「予防接種の記録」は州の保健所で一生涯、保管されます。

 日本の母子手帳でもそうですが、生涯使う大切な情報って結局は「予防接種の記録」なんですよね。ですからこの記録は特になくならないよう、ウェブ上で保管するというわけです。ワシントン州でもアラバマ州でも以前は紙の記録を併用していましたが、2017年頃から完全電子化が進んでいます。

 電子化のメリットは、「保管」だけにあるのではありません。必要とする人が「アクセス」することも容易になります。ワシントン州では、個人の予防接種記録に医療関係者だけでなく学校関係者もアクセスすることができるようになっています(アラバマ州も将来的にはそうする予定だそう)。多くの保育園・幼稚園、そして公立学校では、子どもを入れる際に予防接種の記録を提出することが義務付けられているのですが、わざわざ紙の記録を持参しなくても、学校関係者が子どものワクチン歴をオンラインで確かめることができるのです。たくさんの人がアクセスできるなんて大丈夫? と思われるかもしれませんが、アメリカにはHIPAAという医療関係の個人情報を保護する法律があります。

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アメリカでプレッシャーから解放された