AERAで連載中の「いま観るシネマ」では、毎週、数多く公開されている映画の中から、いま観ておくべき作品の舞台裏を監督や演者に直接インタビューして紹介。「もう1本 おすすめDVD」では、あわせて観て欲しい1本をセレクトしています。
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どんよりした黒い雲の下、しっかりと抱き合い、正面をジッと見つめる男と女……。映画「火口のふたり」のポスターにはすっかり騙された! てっきりドロドロした性愛映画かと思っていたのだが、見ればなんと小気味よい映画なのだろう。
ある日、いとこの直子(瀧内公美)が結婚することを知らされた賢治(柄本佑)は、久しぶりに秋田へ帰省。早速、直子に新生活の準備に付き合わされる。直子の実家で見せられたのは、一冊のアルバム。写っていたのは、25歳の賢治と20歳の直子。2人が恋人同士だった頃に撮ったあられもない姿だった。いきなり過去を突きつけられた賢治は、必死に欲望を振り払おうとする。だが、「今夜だけ、あの頃に戻ってみない?」とキスを迫る直子に抗いきれず、2人は再び身体を重ね合う。直子の婚約者が出張から戻るまでの5日間という約束で、2人は「身体の言い分」に身を委ねていくのだが……。
原作は白石一文の同名小説。日本を代表する脚本家・荒井晴彦さんが自らメガホンをとった。
「富士山噴火という仕掛けが面白いと思ったんです。東日本大震災後から2年もたたないうちに原作が出て、こういう手を使うのかと。日本が終わってしまいそうな時に、『身体の言い分』に身を委ねる2人のアナーキーな姿に引かれました」
出演者は2人。過激なセックスシーンが多いので、このご時世、特に直子役のキャスティングには苦労した。
「声をかけた女優には全員断られた。1970年代から80年前半くらいまでは、若手女優が脱ぐことは当たり前にあったんだけどねぇ。結局、今回は脚本を読んでもらって『これなら脱いでもいいです』という女優たちを面接。結果的に、瀧内の身体を張った演技が素晴らしいと言われてるけど、こんなにうまくいくとは思いませんでした」
「私の体を懐かしくなったことって本当に一度もないの?」「賢ちゃんが知ってる賢ちゃんの体と私が知ってる賢ちゃんの体とは違うんだ」……。「僕は勁(つよ)い女の人が好きなんだ」と荒井さんが話すように、かつて自分を捨てた賢治に復讐するかのように大胆に迫る直子が痛快だ。