5日間という中でセックスに耽溺する2人は、この世が破滅しようとするその時も、彼らが選ぶのは、自分の身体が「気持ちいいこと」だ。
「理性か身体かという時に、自分の身体の言い分を聞くというのは革命的。理性で欲望を抑えなさいというのが世の中だから」(荒井さん)
ところで荒井さん、3作目の監督作はいかがでしたか。
「少しは慣れてきたのかな。所詮脚本家だから(笑)。でも、よくも悪くも『荒井晴彦にしか撮れない映画だね』と言われるとまた撮りたくなるね。昔の撮影所は3本までは助監督のままで、お試し期間だったと思う。だから、これで監督として認められるかどうかです」
◎「火口のふたり」
白石一文の小説を舞台や主人公たちの年齢を変えて映画化。8月23日から全国公開
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世界中で大ベストセラーになった米国の同名小説の映画化。「不倫」という言葉が今ほど一般的でなかった1995年の作品。「火口のふたり」が5日間の性愛なら、こちらは4日間という制約の中で激しく燃え上がる、平凡な主婦とカメラマンの恋を描く。クリント・イーストウッド自らメガホンをとり、メリル・ストリープのカップリングで映画も大ヒットした。
65年秋、米・アイオワ州。農場の主婦フランチェスカ・ジョンソン(ストリープ)は、4日間1人で家族が留守の家を預かることになる。そこに、屋根のあるローズマンブリッジの撮影に来て、道に迷ったカメラマン、ロバート・キンケイド(イーストウッド)がやって来る……。
平凡な主婦=私にもこんな素敵な恋が起こるのかも、と世の女性たちに幻想を抱かせたイーストウッド監督。当時ロマンチストの気が多分にあった筆者は、翻訳に原作まで買って大泣きし、映画を見て中年男女の美しき悲恋に酔いしれた。だが年を重ねて思うのは当時、いかに多くの女性たちが抑制された思いを抱えて生きていたか、ということ。ヒットはその証左、でもあるのだろう。
◎「マディソン郡の橋 特別版」
発売・販売元:ワーナー・ブラザース ホームエンターテイメント
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(フリーランス記者・坂口さゆり)
※AERA 2019年8月12・19日合併増大号