来年行われる東京オリンピックで、日本発祥のスポーツ「空手」が初めて採用される。期待が集まるのは155センチ、50キロの小さな女王、宮原美穂選手だ。故障の多さも心配されるが、それも彼女ならではの特性からくるものだという。
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女子組手55キロ級で期待されるのが、昨年の世界選手権を初めて制した宮原美穂(22)だ。技の美しさなどを競う「形」に対し、対戦競技の「組手」は、突き、蹴り、打ちの打撃技によって、有効、技あり、一本の3種で時間以内のポイントを競う。
「去年はすごくいいシーズンだったが、勢いで勝っていた。でも、今年はまだ結果が出せていません。けがが多いのもあるのですが、海外の選手に研究され始めた気がします」
世界が宮原を警戒している証しではあるが、もも裏の肉離れなどもあり、今季は6月までで2大会しか出場できていない。「今までごまかしてやっていた」(宮原)ため、故障が蓄積されたようだ。
155センチ、50キロの小さな女王に、けがが多くなるのには理由がある。帝京大学空手道部の師範・香川政夫(64)は宮原をこう表現する。
「小さな車体にポルシェのエンジンを積んでいるような選手。対戦相手にとって体感スピードがまるっきり違うため、戸惑わせることができる」
宮原は他の選手と出だしのダッシュ力や瞬発力、技を繰り出すスピードが異なるという。すさまじい爆発力があるぶん、筋肉や関節など体への負担がかかってくる。
「本人のダメージも大きい。人の倍以上疲れるようです。休む勇気も彼女にとっては大事なこと」と香川は断言する。
しかも、本来の5階級が、東京オリンピックは統合されて3階級になる。50キロ級の宮原は、ひと回り大きな55キロ級の選手とも相まみえなくてはならない。世界空手連盟が発表している50~55キロ級の世界ランキングは4位(6月現在)。五輪の選考レースを勝ち抜くには大会に勝利して世界ランキング上位に入らなくてはならず、体を休めているわけにもいかないというジレンマがある。