ここで、私の話に戻す。17年9月、会社員活動を終了させたのを機に、20年近く続けていた白髪染めをやめた。ブームの予感だし、どれくらい白髪があるか知りたいし、と軽い気持ちだった。1年ほど経ち、予想より多いことがわかった。額の周辺が一番白かったが、後頭部も側頭部にもそこそこあった。
中途半端に目立つグレイヘアだなあ、と思い始めたのがちょうど「泣き虫しょったんの奇跡」を見に行った頃だった。そこにシニア割引。老けて見えると、自覚させられ、凹んだ。
弱った心に追い打ちをかけたのは翌月。10月16日、朝日新聞「ひと」欄に近藤サトさんが出ていたのだ。「白髪を隠さないフリーアナウンサー」という見出しと共に、和服姿の近藤さんの写真が載っていた。グレイヘアを後ろでまとめた、きれいな横顔だった。50歳、とあった。
東日本大震災の数日後、「白髪染めをストックしなくちゃ」と、バッグに入れていた自分にがくぜんとした。そういう書き出しだった。それ以来、白髪染めをやめたこと、美しさの定義は人それぞれでいいと思っていることなどが書かれていた。
至極真っ当な内容だ。でも、心がねじ曲がっていたのだと思う。読み終えて思ったのだ。
あーあ、やっぱりグレイヘアは美人じゃなきゃね。
シニア割引のせいだ。近藤さんは何も悪くない。でも、それで金髪になった。19年2月末、58歳1カ月のことだった。
行きつけの美容院で「グレイヘアは嫌だけど白髪染めを再開するのも嫌だ」と言ったら、金髪を提案されたのだ。似合うと思いますよとおだてられ、よし、やろう、と決めた。金髪になって最初に会った友人が開口一番、「グレた?」とツッコミを入れてくれたので、以来、「グレまして」と言っている。金髪の58歳を前に戸惑う人も多いから、先に言ってしまう作戦だ。そして今のところ、機嫌よく金髪ライフを楽しんでいる。
ところで、なのだが、元シニア女性誌編集長として改めてグレイヘアブームを解説するなら、白髪染めをやめることが自己肯定になることがポイントだと思う。無理に染めなくても、白髪こそがあなたの人生。そう言われ、ほっとする人が多いことは重々承知しているのに、「グレイヘアは、美人の特権ではないか」という疑念が拭えない。