タレントでエッセイストの小島慶子さんが「AERA」で連載する「幸複のススメ!」をお届けします。多くの原稿を抱え、夫と息子たちが住むオーストラリアと、仕事のある日本とを往復する小島さん。日々の暮らしの中から生まれる思いを綴ります。
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「男性か女性かわからない常連客の性別を確認してほしい」という飲食店店主の依頼を受けたタレントが、当人に性別を確認するロケ。それを見たコメンテーターが「セクシュアリティーに踏み込むとは人権にもとる」と激怒。番組は炎上し、読売テレビの報道局長が謝罪しました。
直後のAbemaTVでは、ロケで性別を尋ねられたご当人を交えて議論。私もその場にいました。ご当人は性別を聞かれた時に何か面白そうなことが始まったなと思い、どうしたら番組が面白くなるかを考えて、保険証を見せたり胸を触らせたりしたのだそうです。
当人が嫌がっていなくても、このロケには問題があります。「見た目で性別がわからない人に性別を尋ねたら面白いだろう」という企画意図自体が、性別違和のある人やトランスジェンダー、Xジェンダーなどの人への想像力を欠いているからです。ある知人は「私の親友は女性の身体で男性として生きている。彼は人々のまなざしに不安を覚えている。もしも彼があんな質問をされたら許せない」と声を震わせました。中には死を思うほどに苦しい思いをしている人もいます。これはただの炎上祭りではないのです。
他にもこうした事例はあります。2015年、朝日新聞デジタルがペッパイちゃんという対話型ロボットを紹介した記事。ロボットの乳房を突いて反応を見るという仕掛けを無批判に報じたことが問題視されました。取材を受けたロボット制作者が女性であったことから、記者は問題ないと判断したようです。女性の身体に対する敬意を欠く表現やセクハラの矮小化を懸念する視点は、記者自身にはなかったのでしょうか。
読売テレビは当該の番組コーナーの当面の休止を発表。メディアは炎上に辟易するのではなく「なぜ批判されたのか、誰に耳を傾けるべきか」をぜひ真剣に考えてほしいです。
※AERA 2019年5月27日号