「東南アジア各国の意向に沿う形で、日本が輸出入を規制するバーゼル条約の改正を主導すれば、アジアにおける日本の信頼性が増すという実務判断もありました」(松澤さん)
もう一つ期待されるのは、日本のリサイクル業者による廃プラスチック処理のための設備投資を後押しする効果だ。
17年に中国が輸入を禁止して以降、日本国内の廃プラスチックはだぶつく状況が続いている。環境省の18年夏の調査では、廃プラスチックの中間処理業者の約6割が「処理量が増えた」と回答した。ただ、中国が再び輸入解禁に転じるのでは、といった懸念から、業界は処理施設への設備投資に二の足を踏んできた。今回の改正によって、少なくとも「汚れた廃プラスチック」については国内で処理することになるため、国内の設備投資が進みそうだ。松澤さんは言う。
「国内で廃プラスチックのリサイクルビジネスの見通しが立つようになったことが最大の成果だと考えています」
一方、環境省の「中央環境審議会循環型社会部会プラスチック資源循環戦略小委員会」座長で、京都大学環境安全保健機構附属環境科学センターの酒井伸一教授(63)は、今回の改正を「海洋排出抑制への第一歩」と評価する。
「1900年代初めにベークライトが発明されたことによりプラスチック素材の利用が始まって約1世紀、本格的な生産と使用開始から約半世紀です。海洋環境におけるこの素材の存在がもたらす悪影響に手を打たねばならないという意味では、大きな時代の転換点にあるとの見方も必要でしょう」(酒井教授)
「汚れた廃プラスチック」の国内でのリサイクルについて、酒井教授は洗浄や選別などの技術レベルが向上していることから、残る課題はコストとの認識を示す。環境省も補助金などにより、国内の民間の処理設備を増やす政策を進める方針だ。
東アジア・アセアン経済研究センター(ERIA)のシニアエコノミストで、アジアのリサイクル問題に向き合ってきた小島道一さんは、今回の規制に対応するのが困難な国への対応も重要だと指摘する。
「小さな島しょ国の場合、発生総量が少ないため施設に投資してもコストが見合わず、汚れた廃プラスチックを破砕・洗浄する施設はほとんどありません。こうした国はある程度分別した上で、海外の工場に輸出せざるを得ません。島しょ国の廃プラスチックの処理についても、日本を含めた周辺の国々が適正な処理、リサイクルを実現できるよう協力するべきでしょう」(小島さん)
小島さんは、国や業者だけでなく、我々消費者にも重要な役割があると指摘する。
「回収・リサイクルに関するシステムづくりは、産業界、流通業界、消費者の協力なくしては成立しません。環境保護と持続可能な経済成長を両立させるため、日本は国際社会で模範的な役割が求められています」(小島さん)
(編集部・渡辺豪)
※AERA 2019年5月27日号より抜粋