日本陸上男子100メートルが熱い。東京オリンピック代表の有力候補として、サニブラウン・ハキーム、桐生祥秀、多田修平、山県亮太、ケンブリッジ飛鳥、飯塚翔太の6名が挙がっている。一方で、世界の選手の動向や国際陸連の新制度など、選手を取り巻く環境は刻一刻と変化している。
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この6人の中から、東京五輪100メートルのメダリストが誕生する可能性が膨らんできているのは、世界のレベルが停滞していることも大きい。
100メートルの世界では、ウサイン・ボルトがことごとく常識を打ち破ってきた。09年のベルリン世界陸上では9秒58の世界記録を当時22歳でマーク、競争のレベルを別次元へと引き上げた。しかし、その後はオリンピック、世界陸上でのメダル獲得へのタイムは緩やかに下降していき、ボルトの引退レースとなった17年の世界陸上では優勝したジャスティン・ガトリンのタイムが9秒92、銅メダルのボルトのタイムは9秒95だった。
今季のランキングトップも、エジョウヴォコーエン・オドゥドゥル(ナイジェリア)のマークした9秒94。おそらく東京五輪も9秒9台の決着となり、そうなれば日本勢がメダル争いに絡むチャンスも出てくるはずだ。
さらに、金メダルの期待もかかるのは、北京・リオデジャネイロの両五輪で銀メダルを獲得した4×100メートルリレーだ。
5月11、12日に横浜で行われた世界リレーでは、多田→山県→小池祐貴→桐生の布陣を敷いたが、小池からアンカーの桐生へのバトンパスでミスが起き、日本は失格となった。だが、その時点では同組で走ったアメリカに大きく水をあけていたのである。
日本といえばバトンパスがお家芸のように語られるが、いまや走力でも海外の列強と肩を並べられる実力者がそろっている。メンバーを固定し、“匠の技”ともいえるバトンパスが完成すれば金メダルも夢ではない。