心に触れる名作を多く生み出し、日本でもファンが多い。

「作品によって方法論は違うけど、ある種の“センチメンタルな要素”は共通してあるかもしれない。それに僕自身が人生を学んだ60年代の文学やアートの影響は大きいね。ウィリアム・バロウズやロバート・ラウシェンバーグ、みな、それまでの『型』からはみ出そうとした人たちだ」

 来日は10年ぶり。“禅”に興味があるという。そういえばキャラハンの人生を変えるのも禅を好む人物だった。

「アレン・ギンズバーグも信奉していた鈴木老師(俊隆)の本で学んだよ。禅は心を落ち着かせるための手段だ。僕の作品にも、その精神性が機能しているかもしれないね」

◎「ドント・ウォーリー」
キャラハン(ホアキン・フェニックス)を支える女性(ルーニー・マーラ)も魅力的。5月3日から全国順次公開

■もう1本おすすめDVD 「マイ・プライベート・アイダホ」

 ガス・ヴァン・サント監督の長編3作目「マイ・プライベート・アイダホ」(1991年)は、路上で生きる若者の刹那を痛切に切り取った青春映画。93年に23歳で亡くなったリヴァー・フェニックスの輝きを永遠に封じ込めたことでも映画史に残る作品となった。

 米オレゴン州、ポートランドで男娼をして暮らすマイク(リヴァー・フェニックス)は発作的に深い眠気に襲われる「ナルコレプシー」を患っている。道ばたで眠りこける彼の脳裏には、常に幼いころに見たきりの、おぼろげな母の面影が映っていた。あるときマイクは男娼仲間のスコット(キアヌ・リーブス)を伴い、母を捜す旅に出る。が、旅の途中でマイクは、母にまつわる衝撃の事実を知る──。

 インタビューで監督が語ったとおり、心に苦しみを抱える主人公がまさに「母の面影を追う」設定である符合が実に興味深い。60年代のビート・ジェネレーションの影響を感じる実験的な香りとみずみずしい映像が色あせない。

 なによりリヴァー・フェニックスとキアヌ・リーブスの美しさは眼福だ。リヴァーはこの演技でヴェネチア国際映画祭主演男優賞など数々の賞に輝いている。

◎「マイ・プライベート・アイダホ」
発売元・販売元:ワーナー・ブラザース ホームエンターテイメント
価格1429円+税/DVD発売中

(ライター・中村千晶)

AERA 2019年4月29日-2019年5月6日合併号

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2024年この本が読みたい!「本屋大賞」「芥川賞」「直木賞」