AERAで連載中の「いま観るシネマ」では、毎週、数多く公開されている映画の中から、いま観ておくべき作品の舞台裏を監督や演者に直接インタビューして紹介。「もう1本 おすすめDVD」では、あわせて観て欲しい1本をセレクトしています。
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実在の風刺漫画家ジョン・キャラハンの人生を映画化したガス・ヴァン・サント監督(66)。きっかけは今は亡きロビン・ウィリアムズだった。
「ロビンはキャラハンのファンで1994年に彼の自伝の映画化権を得ていた。『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』のあと、彼から相談を持ちかけられたんだ」
キャラハンは72年、21歳で交通事故に遭い、胸から下が麻痺してしまう。自暴自棄になり、酒に溺れながらも、やがて自分にしか描けない辛辣でブラックなユーモアを武器に、人気漫画家となった。監督も彼を知っていたという。
「80年代、僕がポートランドで映画を撮り始めたころ、彼も地元で漫画を描き始めていた。映画に描いたように車椅子で猛スピードで通りを走る姿をよく見かけたよ。ロビンは自分でキャラハンを演じるつもりで、僕はキャラハンに話を聞き、ロビンを想定して脚本を書いた。でも彼が生きている間には実現しなかった」
2014年にロビンが亡くなったあと、監督は脚本を書き直した。改めて物語の核に据えたのは事故前からキャラハンが抱えていた飲酒の問題とそこからの脱出プロセスだ。
「彼があれだけ酒に溺れた根源には『母親が誰だかわからない』という理由があった。幼くして養子に出された彼は『誰ともつながっていない』感覚を持っていたんだ。そこにフォーカスして、物語をより大きなものにしようと思った。誰もが“問題”を心の中に抱えていると思うからね」
キャラハンを演じたホアキン・フェニックスは監督の「マイ・プライベート・アイダホ」に主演した故リヴァー・フェニックスの弟でもある。監督自身、たくさんの「死」や「喪失」を経験してきた。
「たしかにロビンもキャラハンもリヴァーも、もういない。リヴァーの死は僕の人生のなかで、死や喪失の観念としてとても強い体験だった。人生で一番とはいえないけどね。それにキャラハンが抱えていた感覚は『死』や『喪失』とは別のものに思える。彼は10年に亡くなるまで、母親を捜し続けていた。でも結局わからなかった。そういえば『マイ・プライベート~』の主人公も母親の面影を探しているね。なぜそういう設定にしたか覚えていないけど」