ベルリンのミヒャエル・ミュラー市長が17年1月、国境壁に執着するトランプ大統領に対して、苦言を呈している。
「一つの国家が新たな壁の建設を計画している時に、黙って見過ごすわけにはいかない。ベルリンの人たちは、有刺鉄線やコンクリートによる分断がもたらした苦しみを最もよく知っている。大統領閣下、この壁をつくってはならない」
さまざまな批判や懸念を受けながらも国境壁建設にこだわり続けるトランプ大統領だが、実は最初は全く無関心だったという。
ジャーナリストのジョシュア・グリーン氏の暴露本『バノン 悪魔の取引──トランプを大統領にした男の危険な野望』(草思社)によると、国境壁の案が初めて出たのは、トランプ氏が16年の大統領選立候補へ動きを本格化させた14年夏。思いついたのは選挙陣営の2人の政治顧問で、注意力散漫なトランプ氏の意識を一つのテーマに集中させるための苦肉の策だったという。
15年1月、米アイオワ州での選挙集会でトランプ氏が壁建設に触れると会場が沸き立った。気分を良くしたトランプ氏はその後も壁建設を大々的に取り上げ続け、万里の長城の現代版と自らが語る国境壁建設の執着につながっていく。暴露本の内容が事実ならば、歴史的教訓も国境壁の有効性の分析も何もない、単なる思いつきに基づく、いいかげんな発想だった。
米国民の意見も割れている。米ギャラップ社の世論調査によると、19年1月時点で60%が壁建設に反対と答え、18年6月の前回調査から3ポイント増えた。賛成は40%で前回調査の41%と、ほぼ横ばいだった。一方で、同社の別の世論調査では、移民問題を国の最重要課題と認識する米国民が19年1月で21%となり、18年12月から5ポイント上昇。これは同社の過去の移民に関する調査の中で、18年7月の22%と同年11月の21%に並ぶ最高水準だという。
壁には反対だが、移民を問題視する傾向は強まっている米国世論が見てとれる。保守系で共和党寄りとされるウォールストリート・ジャーナル紙も、不法移民対策としての国境壁建設の費用対効果に疑問を投げかけつつ、不法入国者の動機を根本的に消失させるような対策を求める社説を掲載している。(朝日新聞GLOBE編集部・山本大輔)
※AERA 2019年4月22日号より抜粋