ペットを弔う方法として、訪問葬儀という選択肢が人気になっている。霊園まで出向く必要がなく慣れた自宅で行えるのがメリットだ。何よりも「ちゃんと送ってあげられた」という満足感を得られる。
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訪問葬儀社から到着の連絡があったのは、土曜日の午後1時過ぎだ。埼玉県在住の女性(69)はスタッフを自宅に迎え、少し驚いた。黒い服に身を包んだスタッフの物腰が、神妙で丁寧だったからだ。もっと事務的に進むのかと思っていた。
リビングの真ん中の猫用ベッドには、花束に囲まれた愛猫が横たわる。高齢で体が弱り食べなくなって3日、2人の子どもも仕事終わりに県外から駆けつけ、金曜の明け方、夫(72)と家族4人でみとった。18歳だった。
「お口を清めてあげてください」
そうスタッフに説明され、ペット専門の神社で受けたという道具で末期の水を行い、ハッカ油の香るタオルで体を拭いた。
ペット用の小さな念珠(ねんじゅ)もあるという。夫が前脚に念珠をつけると、ほっと息が漏れた。大切に扱われているという実感に、どこかにあった「人の葬儀も大変な時代に、動物に大仰なことをするのは」という後ろめたい気持ちがほぐれていく。
火葬車まで愛猫を運び、花束で体を囲んだ。好きだったおやつも入れた。火葬を待つ間、遅い昼食をとり、愛猫の思い出話をした。約2時間後、まだ温かい骨を全員で拾った。
ペット葬儀を行うのも訪問葬儀を頼んだのもはじめて。いま、女性の胸に残るのは、「ちゃんと送ってあげられた」という満足感だ。小さな骨壺には、両脚をそろえ、こちらを見つめる愛猫の写真が添えられている。
「夫は大病をしたばかりで遠出する体力はない。私と子どもは働いているし、休日に自宅でできてよかったと思います」(女性)
ペットフード協会の2018年の調査によると、全国の推計犬・猫飼育頭数は合計1855万2千頭(犬890万3千頭、猫964万9千頭)にのぼる。だが、必ず迎える死について、ペットの死体の扱いを定める法律は今のところない。日本女子大学消費生活研究室の細川幸一教授はこう指摘する。