


AERAで連載中の「いま観るシネマ」では、毎週、数多く公開されている映画の中から、いま観ておくべき作品の舞台裏を監督や演者に直接インタビューして紹介。「もう1本 おすすめDVD」では、あわせて観て欲しい1本をセレクトしています。
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「ナビィの恋」など沖縄をベースに映画を撮ってきた中江裕司監督(58)が、福島とハワイをつなぐ「盆唄」を題材にドキュメンタリーを撮った。理由は「縁があったから」。
「震災後、福島に多くのカメラが入ったけど、僕はそれまで福島に縁がなかったし、わざわざネタを探しに行くようなことはしたくなかったんです。でも2012年にBEGINに頼まれてハワイの沖縄系日系移民のドキュメンタリーを撮り、そこから100年以上前に福島からハワイに渡った日系移民に双葉町の盆唄が受け継がれていることを知った。縁を感じて、よし! と」
映画の軸となる横山久勝さんとの出会いも大きかった。横山さんは双葉町民で、いまも避難先で暮らしている。
「最初に会ったとき『この人は完全に魂を双葉に置いてきている』と感じたんです。日系移民と避難民には『アイデンティティーが揺れる』という共通点がある。僕自身も京都出身で沖縄に住み、『自分の根っこはどこか』と常に揺れている。だからそういう人に惹かれるんでしょうね」
かつては盆唄に欠かせない太鼓づくりをしていた横山さんだが当初は「もう太鼓は作らない」と言っていた。そんな横山さんがハワイの盆唄や太鼓の存在を知り、双葉町の盆唄復活に向けて動いていく。
「帰還困難区域に戻った横山さんが拾った太鼓をポンと打つ場面。あれがきっかけだった気がします。あれはカメラがあったからやったと思うんです。映画は非日常であり関わる人の背中を少し押す、みたいなところがある。ゆえに責任も大きいんですけど」
監督自身も初めて帰還困難区域に足を踏み入れた。
「別世界でした。野生のイノシシが走り、すべてを植物が覆い尽くしている。まさにナウシカの世界で、『豊かだ』とさえ感じた。危険を感じないのに線量計の針は振れるんです。それが怖い」
が、歌と踊りに彩られた映画は決して悲観的ではない。