史上2回目の米朝首脳会談が2月27、28の両日、ベトナムのハノイで開かれる。昨年6月の初会談から約8カ月半、両国を取り巻く状況には大きな変化が生まれた。それが予期せぬ化学反応を起こして、むしろ「安易な妥協」や「当事者による見なし成果」への不安を強めている。まれにみるタヌキ同士の首脳会談に向けた舞台裏で、何が起きているのだろうか。
「あなたはトランプ大統領のことを分かっていない。彼は言ったことは必ずやる。北朝鮮を100%完全に非核化させる」
首脳会談が目の前に迫った2月下旬、米国で講演を終えた中林美恵子・早稲田大学教授(米国政治)に、聴衆の中にいたトランプ支持者の白人男性がにじり寄り、そう反論したという。
講演では、北朝鮮の核問題に対する日本の強い危機感を伝えた。聴衆の反応から中林教授は、トランプ支持であろうがなかろうが、一般的な米国民の意識とは大きなズレがあると感じた。
「核ミサイルが米国に飛んでこなければいいと思っている。今回の米国訪問で、そう感じました」(中林教授)
まさに米国民の本音で、遠い国の北朝鮮が仮に完全非核化しなくても、米国を攻撃さえしなければ一義的には問題ない。トランプ大統領の自国第一主義に通じる考え方で、筆者も米国人の友人たちとの会話の中で、たびたび実感する根本意識だ。
昨年6月の初会談で、「朝鮮半島の非核化」を華々しく強調したトランプ大統領だったが、その後、北朝鮮は非核化の動きを見せていない。「歴史的功績」への期待感は一気にしぼみ、時間ばかりが流れた約8カ月半だった。すでに2020年の米国大統領選に向けた事実上の選挙戦が始まっている。さらには、トランプ大統領が眠れないほど気に掛けている、自身をめぐる「ロシア疑惑」の調査が大詰めを迎えた。2回目の米朝首脳会談と同時期に捜査終了が発表されるとの報道もある。
「ノーベル平和賞に値すると本人が思っている北朝鮮問題だけに、手柄を放っておくわけがない。北朝鮮との交渉を前進させようと焦っているのは、むしろトランプ大統領です」(同)