「石炭や鉄鉱石、海産物や労働力を輸出して得た外貨を、平壌の権力層や特権層、富裕層で分配するのが北朝鮮の利益の構造。人民からの搾取でもうけて、特権層がいい暮らしをするという、このシステムがまひし始めた。中国貿易でもうけてきた貿易会社が数多く潰れ、富裕層の没落が続出している。終戦を優先させると言っている場合ではなく、なによりも先に制裁緩和が重要だという危機感が、金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長に生まれていると思う」

 石丸氏によると、18年の北朝鮮の輸出は前年比で約9割減。輸入でもガソリンや灯油に量制限がかかり、機械や車両、部品などは禁輸対象だ。食料や日用品は制裁対象外なので、生活物資の不足はないし、インフレも起きていないというが、「深刻な不景気に陥り、おカネが回らなくなっている状態で、これが続けば社会に動揺が起きかねない」。

 経済苦境を踏まえ、朝鮮中央通信や労働新聞も、この数カ月は制裁緩和を求める主張が圧倒的に多くなったという。終戦宣言や平和協定など米朝二カ国の関係正常化を強く求めていた昨年の主張からは大きな変化だと、石丸氏は分析している。

 それだけに米国は、制裁緩和を最大の交渉材料にして、北朝鮮からうまく譲歩を引き出す好機であるとも言えるという。

 金委員長は今年の新年のあいさつで「自立的経済」という言葉を繰り返した。経済制裁の影響で中断を余儀なくされている開城工業団地と金剛山観光の両事業を前提条件なしで再開する意欲も示した。こうした南北間の事業の再開を、「制裁緩和の突破口にしたいと考えているはず」と石丸氏。まずはこれを認めさせ、今後も北朝鮮が非核化に向けた措置に応じるたびに、その一つ一つに制裁緩和が伴うことを米国に確約させようとする可能性があると見ている。

「完全な非核化」からはほど遠い「自分ファーストの当事者同士が成功と見なすだけの成功」で、むしろ「非核化目標」があいまいになる危険性を石丸氏も心配している。また、統治資金に窮した金政権は、「教育、建設、軍隊支援、保険などの名目で国民から強制徴収を始めた。その負担は昨年11月の場合、月1600円ほどで、一般世帯の収入の3分の1から半分くらいにあたる」(石丸氏)。こうした人権や人道問題については一向に米朝交渉のテーマにはならない。あいまいな非核化の合意だけで米朝関係が正常化されてしまうことの問題性も石丸氏は指摘している。

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