演歌歌手の座長公演の殿堂として知られる東京・明治座。この場所で座長公演を打つことができれば人気、実力ともに一流のあかし。大物演歌歌手、水谷千重子が初の座長公演を務めることになった。
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芸能生活50周年の大ベテラン。そして芸人、友近の親友とされる水谷千重子に明治座で初座長公演に挑む今の心境を尋ねた。
「それはもう、夢のようです。去年、コロッケちゃんの座長公演でお歌のゲストに2回ほど出させてもらったのね。その様子を明治座さんがご覧になって今回のお話に繋がったんですけど、何ていうのかしら、明治座さんの……勇気?(笑)」
公演は芝居と歌謡ショーの2部構成。ここ数年は豪華アーティストをゲストに招いて“ジョイン”する全国ツアー「キーポンシャイニング歌謡祭」を開催し、座長的なポジションも経験している水谷。
しかし、今回はまったく勝手が違った。
「明治座が好きで見に来るお客様や、はとバスのツアーとか団体で見に来るお客様は、初めて千重子を見て『?』と戸惑う人もいると思うんです(笑)。だから、いつものように好きなことだけをやるんじゃなくて、お芝居もみんなが知ってる、明るく分かりやすいものにしなきゃ、と頭を悩ませました」
そこで思いついたのが一休さんだ。誰もが知る一休さんの末裔である尼を主人公にした「とんち尼将軍一休ねえさん」という演目で挑む。
「尼さんだとビジュアルも面白いし、とんちの話だと分かりやすい。ま、普段の千重子はベタなお笑いが好きだから。しかも、昼は尼さんだけど、夜は花魁という二つの顔を使い分けて難事件を解決していく話なんです。千重子は五社英雄監督が大好き。五社イズムを入れ込みつつ、痛快で笑えて感動、涙……みたいな。そういうお話で楽しんでいただこうと思っています」
確かにベタな笑いも想像できるが、公演のポスターを見れば、従来のファンにもしっかりアピールする二重構造なのが見て取れる。赤い口紅で涅槃のポーズをとる一休ねえさんの、何とも言えない淫靡なおかしみ。そして千重子の初代付き人だという、あご勇の表情がたまらない。