Robert Schwentke/1968年、独・シュツットガルト生まれ。2002年長編監督デビュー。05年の「フライトプラン」でハリウッド進出。本作は15年ぶりにドイツで手がけた(撮影/写真部・東川哲也)
Robert Schwentke/1968年、独・シュツットガルト生まれ。2002年長編監督デビュー。05年の「フライトプラン」でハリウッド進出。本作は15年ぶりにドイツで手がけた(撮影/写真部・東川哲也)
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「ちいさな独裁者」/ナチス将校の威光を手に入れた若き脱走兵が「独裁者」に変貌していく様を描く。全国公開中 (c)2017 - Filmgalerie 451, Alfama Films, Opus Film
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「RED/レッド」/発売元:ウォルト・ディズニー・ジャパン、価格2381円+税/Blu-ray+DVD発売中 (c)2011 Summit Entertainment, LLC. All Rights Reserved.
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 AERAで連載中の「いま観るシネマ」では、毎週、数多く公開されている映画の中から、いま観ておくべき作品の舞台裏を監督や演者に直接インタビューして紹介。「もう1本 おすすめDVD」では、あわせて観て欲しい1本をセレクトしています。

【写真】映画「ちいさな独裁者」の場面写真と「もう1本 おすすめDVD」はこちら

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 コスプレは楽しい、と笑っていられない戦慄の映画が「ちいさな独裁者」だ。

 ドイツの敗戦が濃厚になっていた1945年4月。命からがら部隊を脱走した一兵卒、ヴィリー・ヘロルトはドイツの無人地帯を一人さまよっていた。そんな時、彼は打ち捨てられた軍の車両を見つける。そこには将校の軍服が。それをまとった彼は、出会った兵士たちが自分を大尉だと信じることに味を占め、言葉巧みに次々に服従させていく。強大な権力に魅了されたヘロルトは、やがて極悪非道の独裁者へ変貌していき……。

 実在の人物に基づいた物語。脚本も担当したロベルト・シュヴェンケ監督は、

「第2次世界大戦中の出来事を加害者の視点で描いている映画は日本やポーランド、ロシアにはありますが、ドイツにはなかった。そこで私はドイツでも作りたいと題材を探しました。12年以上前のことです」

 本や古文書、日記、ナチスの関係者が書いた小説など積み上げた資料は何メートルにも及び、5年かけて読み漁った。そして見つけたのが「この映画の素地となった」本作の主人公ヘロルトの裁判記録だ。「すぐにそれで映画が作れるかはわからなかった」が、映画を作る上で考えたことは三つあったと言う。それは、「過去を搾取しない」「今日に関連づけて見られる作品を作る」「観客に安らぎを与える映画ではなく、史実に対峙させ、自分ならどうする?と見る人が自分に問うような映画を作る」ことだ。

「ドイツでは『第2次世界大戦で起こった虐殺に一兵卒は関与していない』という“神話”を学んでいました。殺戮はナチスの高官たちによるものだと。でも、冷戦が終わった時にロシア側から多くの写真や映像などの記録が出てきてそれが嘘だとわかった。それもあってこの映画では国家社会主義の力学を掘り下げたいと思った。国家社会主義というシステム自体が、ヘロルトの行動を許していたことを知ってほしかったんです」

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