「宇宙で人は何を思うんだろう?というのは私が知りたいことでもあった」と語る矢野顕子さん(撮影/写真映像部・松永卓也)
「宇宙で人は何を思うんだろう?というのは私が知りたいことでもあった」と語る矢野顕子さん(撮影/写真映像部・松永卓也)

「14曲分の詞には野口さんの本当の気持ちが書かれていて、とても感じるものがありました。彼は作詞家ではないので、すべて長さが違っているし、表現の方法もいろいろ。でも、私はポップスシンガーなので、自分で歌えて、みなさんにも聴いてもらえるポップスにしたいと思っていました。私も経験したことがない作り方だったのですべての曲が完成するまでには約1年かかりましたね」

■宇宙を体験できる楽曲

 レコーディングは2022年6月。ツアーの合間を縫って、東京のスタジオで3日間にわたって行われた。

 アルバムの1曲目は「ドラゴンはのぼる」。宇宙船クルードラゴンに乗り、地上から宇宙に到達するまでの12分間を“共有”できる楽曲だ。野口の体験がリアルに反映された詞を表現するために矢野は、何度もリテイクしたという。

 このアルバムについて野口聡一は「野口聡一の宇宙飛行をなぞったり追体験したりするものじゃない。あくまで矢野顕子がつくる宇宙を直接体験する試みだと思う」と語っている。その言葉通り、リスナーは楽曲を通して、宇宙への新たな扉を開く感覚を得られると思う。

 船外活動をテーマにした「透き通る世界」では常に死と隣り合わせにある宇宙空間に、そして、「ここに いるはず」では<だいじなひと><まだあえてないひと>に思いを馳せる。根底にあるのは命の大切さだ。

「地球は命の星であり、宇宙は死の世界だということを野口さんははっきりとおっしゃっていて。当然ですが、人は宇宙では生きられない。船外活動のとき、宇宙服にちょっとでも傷がつけば、酸素がなくなって死んでしまうんです。宇宙飛行士は身を挺して科学的なリサーチなどを行っているわけですが、もちろん人間なので、そんな厳しい環境のなかでも“今ごろ、子どもたちはどうしてるかな?”と考える。宇宙で人は何を思うんだろう?というのは私が知りたいことでもあったし、このアルバムのタイトル(『君に会いたいんだ、とても』)にもつながっていますね」

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なぜ宇宙に関心を抱くのか