宇宙飛行士の野口聡一が、宇宙でのミッション中に書いた14編の詞を、矢野顕子がピアノの弾き語りで歌にする――。大の宇宙好きとして知られる矢野が、「何が何でも、絶対に実現させたかった」というこのプロジェクトにかけた思いとは。
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“矢野顕子・野口聡一”名義によるアルバム『君に会いたいんだ、とても」がリリースされた。全曲、“作詞・野口聡一/作曲・矢野顕子”による異色のコラボレーション作品だ。
■「私たちには共通するものがある」と思った
このプロジェクトのはじまりは、2020年2月。テキサス州ヒューストンで書籍『宇宙に行くことは地球を知ること―「宇宙新時代」を生きる』(光文社新書)のための対談中に、矢野が「宇宙で自由に詞を書いてください。私が曲をつけます」と提案したのがきっかけだ。
それに対して野口は「それは面白いかもしれない」と答えた。そこからこのプロジェクトは始まったという。
「宇宙のなかで人は何を感じ、何を思うのか。それを知るためには、実際に行った人に聞くのがいちばんですよね。2日間朝から晩までしゃべり倒してもぜんぜん足りませんでしたが、対談を通してお互いがどんな人間なのかわかってきたし、<私たちには共通するものがある。一緒に何かをやれば、それは価値のあるものになるはずだ>と思ったんです。本当は一緒に宇宙に行きたかったのですが(笑)、それはどうやら無理のようで。私は音楽家なので、野口さんの体験を音楽にして、歌とピアノで表現するのがいちばんだろうなと思いました。野口さんの宇宙での経験を私が音楽にすることで、みなさんにも共有できればいいな、と」
2020年11月に宇宙船クルードラゴンで宇宙に飛び立った野口は、国際宇宙ステーション(ISS)に約半年間滞在。翌年5月に地球に帰還するまでに14編の詞を書いた。
「半年間の滞在といっても、もちろんバケーションがあるわけではなく、スケジュールはびっしり詰まっていて。日々の業務が終わり、就寝までの時間で野口さんはYouTubeで宇宙でのいろいろなことを発信してくださっていた。私がお願いした歌詞も、その時間を使って書いてくれていたようです」