妻として女性としての問題意識をちりばめながら、米国初の黒人の大統領夫人の人生を刻んだ回顧本は大きな関心を呼び、18年11月13日の発売初日だけで72万部が売れた。CNNによると、電子版を含まないハードカバーの売り上げは18年11月末現在で112万部を超え、同時点で100万部超の『FIRE AND FURY』や、87万部超の『FEAR』を上回るミリオン・ベストセラーになった。
18年に著書を出版したホワイトハウス勤務経験者がもう1人いる。16年の大統領選でトランプ氏に妻ヒラリー氏が敗北したクリントン元大統領だ。
ミステリー作家と共著したフィクション『THE PRESIDENT IS MISSING(大統領失踪)』では、天才的なテロリストが開発したウイルスによるサイバーテロを事前に防ごうと奮闘する米国大統領の姿が描かれている。対立に明け暮れる国内政治に背を向ける独善的な大統領で単独行動ばかりだが、それでも同盟国との協力を大切にしながら国難を乗り切るヒーロー小説だ。
IT時代に起こり得るサイバーテロの深刻な危険性を暗示するプロットが見事な本格小説だが、自身も成し得なかった大統領のあるべき姿を示した反省作品にも見えた。命も惜しまずに国を救う大統領が主人公だけに、トランプ大統領を思わせる登場人物は出てこない。それこそが元大統領の現政権に対するメッセージなのかもしれない。
フィクションだからこそ危機的な未来をあえて描いた小説もある。『AMERICAN WAR(アメリカン・ウォー)』。分断社会の最悪な結末である米国内戦の話だ。内戦を生き抜く少女が主人公で政治的要素は全くない。それでも米各紙による書評が、米国の抱く社会不安の深刻さを代弁していた。
「フィクションであることが唯一の救い。少なくとも現時点では、だが」「未来を予見する、ぞっとする小説」──。
トランプ政権発足後、米国社会が激変する中で出版された6冊。一般人が抱く不安や怒りを写し出す鏡としても読み応えがあった。庶民に向けて庶民目線で言葉をつむぐからこそ影響力が大きい。混迷深まる米国社会にあって、こうした作品がますます増えていくと確信した。(編集部・山本大輔)
※AERA 2019年1月28日号より抜粋