トランプ政権の実相は、フィクション以上に特異なものだった。それを明らかにしたのが、2人のジャーナリストがそれぞれ独自取材で政権内部の混乱ぶりを記した暴露本だ。
18年1月に出版されたのが、マイケル・ウォルフ氏の『FIRE AND FURY(炎と怒り)』。大統領の長女イバンカ夫妻との確執などから17年8月に辞任に追い込まれたとされるバノン前大統領首席戦略官兼上級顧問が取材に協力したことで知られる。それだけにバノン氏の主観が強く反映されているようにも感じる一冊だ。
トランプ陣営で本人を含め、誰もが敗北を前提にしていた16年の大統領選。大統領夫人の可能性はないと伝えられ、安心していたメラニア夫人は、勝利に失望の涙を流した──。
ホワイトハウス入りをイバンカ夫妻が決断する際、夫婦間で一つの合意をした。大統領選に出る機会があれば、先に立候補するのはクシュナー氏ではなく、イバンカ氏が米国初の女性大統領を目指すことを──。
事実を別の事実で隠す戦略として批判を浴びたコンウェイ大統領顧問の「オルタナティブ・ファクト(もう一つの事実)」発言は、実は「オルタナティブ・インフォメーション(もう一つの情報)」として別のデータを示すことを意味していたが、言葉の選択を間違った──。
大統領の家族や一部側近にまつわる喜劇のようなエピソードが豊富に記されている。政権を担う資質があるのか、強烈な問題提起となっているが、生の発言の紹介が少なく、全体的に説明調のため、どこまでが著者やバノン氏の主観で、どこからが真相なのかは判断しにくい。
臨場感たっぷりの生の言葉がふんだんに含まれている暴露本が、18年9月に出版されたボブ・ウッドワード氏の『FEAR(恐怖の男)』だ。大統領の家族や側近に限らず、閣僚や政権幹部らの多くの発言が紹介されているため、それぞれの人間性や信念なども伝わってくる。
まさに前述のサム・ボーン氏の小説のように、感情を抑制できない大統領の暴走を食い止めるため、閣僚たちが奔走する現実の姿が、詳細な舞台描写や発言内容とともに刻まれている。