ただ、マイペースぶりに周囲が驚くこともある。所属チーム(土屋ホーム)で監督を兼任する葛西紀明(46)が運転するチーム車の助手席で、スマートフォンをいじり続けることもあった。かつて総監督を務めた川本謙さん(69)によると、入社当初は葛西らと違って試合結果などをなかなか報告してこなかったという。

 一方で、内に秘める心の強さを周囲は認めてきた。2016-17年シーズンのワールドカップ(W杯)では日本代表が参戦した全戦に出場しながら、30位以内に与えられる得点はゼロ。憔悴する小林に、「お前、ノーポイントだな」とあえてとがった言葉をぶつけたときの姿を葛西は忘れられない。

「顔には出していなかったけれど、『悔しいです』という感じだった」
 初めて臨んだ平昌五輪でも、「普通のW杯より緊張しなかった」という。実際、ノーマルヒル7位、ラージヒル10位はどちらも日本勢最高。同い年で小さいころからの友人でもある女子の高梨沙羅(22)が銅メダルを獲得して注目を集めたが、小林はひっそりと今季の大躍進に向けた足跡を残していた。

 海外での愛称は「Roy(ロイ)」。りょうゆうが発音しにくいため、そう呼ばれる。21季前に日本勢初のジャンプ週間総合優勝を果たした船木和喜(43)も成し遂げていない、日本勢初のW杯総合優勝が視野に入ってきた。しばらくはRoy旋風がジャンプの本場欧州でも吹き荒れる。(文中一部敬称略)(朝日新聞スポーツ部・勝見壮史)

AERA 2019年1月21日号より抜粋

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