大西順子トリオのライブで偶然春樹さんに会った。有楽町の会場から出ると雨が降っていたが、耳の奥でまだピアノが鳴っていて、夏の雨の筋が「五線譜」に見えた……景色が何かを語り出すとでも言ったらいいか。
番組でかける楽曲リストは事前に春樹さんから手渡されるので、何度も聴いて耳に馴染ませ、収録に備える。それでも、収録時にトークが入ると、曲全体が新鮮に聴こえてくる。
「ぼくは一人っ子できょうだいもいなかったから、昔から本と音楽と猫が友達だった。国分寺にいる頃、ほんとにお金がなくて暖房もなくて。猫が2匹ぐらい家にいた。風通しがよくて冬は寒い。猫も寒いじゃない? だから猫と一緒に絡み合って暖かくして寝ていた。うちの猫が友達を連れてくる、近所の猫を。気が付くと布団の中に4匹くらいいるの。でもあったかいから歓迎してみんなで寝ていた。お互い助け合って生きていた」
流れる音楽に猫の温もりが伝わって、晩秋の夜がほっこりした。どんなときもユーモアと微笑みを忘れない村上DJの言葉に触れると、小説で世界中の読者を虜(とりこ)にしてきた理由が分かる気がする。(ラジオプロデューサー・作家・延江浩)
※AERA 2018年12月17日号より抜粋