■FUJIROCKFESTIVAL2011/YMO

 震災の年の“フジロック”の最終日(7月31日)にYMOが登場。ライブが行われたのはグリーンステージ(メインステージ)だが、じつは同じ日に行われていたアトミック・カフェ(1980年代から続く反核・脱原発イベント)にも登場していた。筆者は運よくその場に居合わせていたのだが、メンバーの3人は福島第一原子力発電所の事故に対する不安や憤りを率直に話していた。なかでも坂本は、この国の原子力政策に対する怒りをストレートに表明していて、強く共感しつつも、少々驚いた記憶がある。

 ライブには坂本、細野晴臣、高橋幸宏のほか、サポートメンバーの小山田圭吾、権藤知彦、クリスチャン・フェネスも出演。「ファイアークラッカー」「千のナイフ」「ライディーン」「東風」などの代表曲を新たなアレンジで披露した。この時点でファン歴30年だった筆者は、「ようやくYMOを観た」と強い感慨を覚えた。

■トリビュート・ライブ「Glenn Gould-Remodels」/2017年12月

 グレン・グールドの生誕85周年を記念して行われたイベント「Glenn Gould Gathering(グレン・グールド・ギャザリング)」。グールドを敬愛していた坂本がキュレーターをつとめ、トーク、サウンド・インスタレーション、映画上映などが行われたこのイベントのハイライトが、東京・草月会館でのリビュート・ライブ「Glenn Gould-Remodels」だった。出演は坂本のほか、ギタリストのクリスチャン・フェネス、電子音楽家のアルヴァ・ノト、ピアニストのフランチェスコ・トリスターノなど。現代音楽、実験音楽の要素を取り入れながら、それぞれの解釈でグールドを表現する刺激的なステージが繰り広げられた。

 トークセッションには、若い音楽ファンに人気のバンド“サカナクション”の山口一郎が登壇。国内外のアーティストとのつながりを生かし、幅広いリスナーが様々な音楽に触れられる機会を作ったのも、坂本の功績だろう。

■配信コンサート「Ryuichi Sakamoto: Playing the Piano 2022』/2022年12月

「ライブでコンサートをやりきる体力がない――。この形式での演奏を見ていただくのは、これが最後になるかもしれない」。そんな言葉とともに届けられた配信コンサートは、坂本が「日本でいちばんいいスタジオ」と評するNHK放送センターの509スタジオで1日数曲ずつ収録され、1本のコンサートになるように編集されたもの。坂本の存在を世界に知らしめた「Merry Christmas Mr. Lawrence」、YMOの「東風」をはじめとする代表曲から、ラストアルバム『12』の収録曲まで、厳選された13曲が披露された。過去を振り返るのではなく、自らの音楽の可能性を信じ、新たな表現に向かおうとする姿勢こそが、この配信ライブのすごさだろう。

 坂本が作詞・作曲を手がけたYMOの「音楽」(アルバム『浮気なぼくら』収録/1983年)は、<ぼくは地図帳拡げてオンガク>というフレーズではじまる。まさに地図帳を拡げるように彼は、活動のフィールドと音楽的な表現を拡大し続けてきた。その軌跡を追うことは、音楽そのものの豊かさと可能性につながっているのだと思う。ご冥福をお祈りいたします。

(森 朋之)

森朋之(もり・ともゆき)/音楽ライター。1990年代の終わりからライターとして活動をはじめ、延べ5000組以上のアーティストのインタビューを担当。ロックバンド、シンガーソングライターからアニソンまで、日本のポピュラーミュージック全般が守備範囲。主な寄稿先に、音楽ナタリー、リアルサウンド、オリコンなど。

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森朋之(もり・ともゆき)/音楽ライター。1990年代の終わりからライターとして活動をはじめ、延べ5000組以上のアーティストのインタビューを担当。ロックバンド、シンガーソングライターからアニソンまで、日本のポピュラーミュージック全般が守備範囲。主な寄稿先に、音楽ナタリー、リアルサウンド、オリコンなど。

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